もう取り返しがつかない。過ぎ去った記憶を思い出すことに、どんな意味があるのか分からない。
イーリス以後の生まれ変わりのエレノアは、一応、最初は彼を愛する事に躊躇いを感じていた。もしかして、魂が学習したのだろうか。彼を愛してはいけないと。
素直に愛情を出すことが出来なかった。そんなエレノアの心情が分かるような気がする。
身分の違いだけじゃない。命がけの恋は魂を削る。離れていても一緒にいても気が狂うような不安に襲われるものなのだ。花梨は我知らず呟いていた。
「あたし、本当にどうかしているよ……」
家族にも内緒で沖縄にまで来てしまうなんて、自分でも意外だ。
犬が死んだことで気が動転していたとは言うものの、輝の都合を考えることなく来てしまったことを後悔していた。輝が泊まる部屋の鍵を渡されたが、そこに入るのは躊躇われる。まずは自分の宿を確保しなければならない。
「えっ……! 満室なんですか!」
とりあえず、花梨は、輝が泊まっているホテルの部屋を予約しようとしたが、どこも満室だった。ここは、コテージ形式の素敵なホテルである。部屋の外に豪奢なジャグジーがあることで有名だ。ここの客はカップルが多い。花梨は、別の宿泊施設を探そうとスマホを取り出して検索してみたが、どこも満杯だ。ひとつの部屋に見知らぬ同士が大勢で泊まる形式のものならあるけれど、それは少し怖い。ロビーで思案していると、輝が撮影から戻ってきた。
「部屋がないのなら俺の部屋で寝たらいいじゃん」
真面目な顔で言い継いでいる。
「大丈夫だよ。俺は外で寝るよ」
「ごめんなさい。あたし、迷惑かけてばっかりだね」
花梨は申し訳無さそうに言う。
「輝くんは部屋で寝てね。あたしは家に帰るよ。今からならギリギリ間に合うと思うから」
ここは小さな島。
家に帰れなくても、沖縄本島に移動すれば宿が見付かるだろう。早く移動しなければと思う反面、去るのが辛い。花梨の気持ちは大きく揺れていた。
(何のために、あたしはここに来たの?)
どうしても会いたかった。輝の近くにいたい。この哀しみを分かち合いたいの。
「あたし、正直に言うと帰りたくないんだ……」
輝は、花梨を静かに見つめている。花梨は、その瞳の中へと吸い込まれていくような錯覚に陥ってしまう。
「俺も帰って欲しくないよ」
彼は恥ずかしそうに笑っている。素朴で優しい素敵な人。いつの世も彼は花梨を守ってくれる。
「なぁ、せっかくだから散歩しようぜ」
その声に誘われるように頷くと、彼は花梨の手を引いた。手を握り合ったまま、二人は浜辺に向かっている。
『イーリス! 海って、どんなところなのかな? しょっぱいらしいぜ』
イーリス以後の生まれ変わりのエレノアは、一応、最初は彼を愛する事に躊躇いを感じていた。もしかして、魂が学習したのだろうか。彼を愛してはいけないと。
素直に愛情を出すことが出来なかった。そんなエレノアの心情が分かるような気がする。
身分の違いだけじゃない。命がけの恋は魂を削る。離れていても一緒にいても気が狂うような不安に襲われるものなのだ。花梨は我知らず呟いていた。
「あたし、本当にどうかしているよ……」
家族にも内緒で沖縄にまで来てしまうなんて、自分でも意外だ。
犬が死んだことで気が動転していたとは言うものの、輝の都合を考えることなく来てしまったことを後悔していた。輝が泊まる部屋の鍵を渡されたが、そこに入るのは躊躇われる。まずは自分の宿を確保しなければならない。
「えっ……! 満室なんですか!」
とりあえず、花梨は、輝が泊まっているホテルの部屋を予約しようとしたが、どこも満室だった。ここは、コテージ形式の素敵なホテルである。部屋の外に豪奢なジャグジーがあることで有名だ。ここの客はカップルが多い。花梨は、別の宿泊施設を探そうとスマホを取り出して検索してみたが、どこも満杯だ。ひとつの部屋に見知らぬ同士が大勢で泊まる形式のものならあるけれど、それは少し怖い。ロビーで思案していると、輝が撮影から戻ってきた。
「部屋がないのなら俺の部屋で寝たらいいじゃん」
真面目な顔で言い継いでいる。
「大丈夫だよ。俺は外で寝るよ」
「ごめんなさい。あたし、迷惑かけてばっかりだね」
花梨は申し訳無さそうに言う。
「輝くんは部屋で寝てね。あたしは家に帰るよ。今からならギリギリ間に合うと思うから」
ここは小さな島。
家に帰れなくても、沖縄本島に移動すれば宿が見付かるだろう。早く移動しなければと思う反面、去るのが辛い。花梨の気持ちは大きく揺れていた。
(何のために、あたしはここに来たの?)
どうしても会いたかった。輝の近くにいたい。この哀しみを分かち合いたいの。
「あたし、正直に言うと帰りたくないんだ……」
輝は、花梨を静かに見つめている。花梨は、その瞳の中へと吸い込まれていくような錯覚に陥ってしまう。
「俺も帰って欲しくないよ」
彼は恥ずかしそうに笑っている。素朴で優しい素敵な人。いつの世も彼は花梨を守ってくれる。
「なぁ、せっかくだから散歩しようぜ」
その声に誘われるように頷くと、彼は花梨の手を引いた。手を握り合ったまま、二人は浜辺に向かっている。
『イーリス! 海って、どんなところなのかな? しょっぱいらしいぜ』