「犬のダンボールの底にこんなもんがあったんだ」
この人とは別のホームレスのおじさんが紙切れを見つけたという。
『因果応報。次は、おまえだ。建山輝。おまえのせいだ』
花梨は、その小さな文字を見た瞬間、真っ青になって身体中の血が凍り付いた。なぜ、ここに輝の名前が書いてあるのだろう?
「そんでな、犬の遺体は女子トイレにあるらしいんだよ。俺は、見てないが、先刻、入った女性が言ってたよ。俺は女子トイレに入れねぇし、区の清掃員は三日に一度しか来ないから、どうしようもねぇんだ」
哀しい事にマルは口から血を流して死んでいた。女子トイレの奥の個室に放置されていたのだ。
まるでボロ雑巾のような姿になっている。耐えられなくなって花梨はしゃがみこむ。熱い涙がとめどなく流れていった。怒りと絶望が貫いた。ドクンッ、ドクンっと悲しみが全身に脈打っている。
(こんなのイヤだーーー……)
花梨は、ひっくひっくしゃくりあげながら子犬を土に埋めていった。お墓作りを手伝ってくれたホームレスのおじさんが墓の場所が分かるように小石を積んでくれている。
「物騒な世の中だな。おいらの仲間も半グレの若造に殴られたことがあるんたぜ。お嬢さん、当分、来るのはやめときな。犬っころを殺した奴と遭遇するといけねぇ」
ホームレスのおじさんも困惑している。
「建山輝。脅迫状みたいな紙切れ名前が書いてあるが、もしかして、あんたの知り合いかね」
「はい、そうです」
「そんなら、この子にも気をつけるように教えてあげなさい」
花梨は会釈すると夢中でそこから駆け出した。
見えない恐怖がメモに集約されている。花梨は押し迫る恐怖と見えない敵について考え続けていた。
この時、ある仮定が頭に浮かんだのだ。
(もしかして、あたしがマルを死なせてしまったの。まさか……、マルは、あたしが過去に死なせた男の子の生まれ変わりなの?)
子犬を殺すような変質者に輝が狙われている。
「犯人は誰なの……?」
夕刻、花梨はキュッと唇を噛み締めてから決意していた。
『輝くん、今、どこ?』
メールを送ると返事が帰って来た。土曜からの三連休、沖縄の小さな島のホテルの前のビーチで撮影しているということだった。会いたい。今すぐに輝の顔を見たい。そうでないと胸が張り裂けそうだ。
「母さん……。あのね」
花梨は母親に嘘をついていたのである。舞子の家に泊まると告げると簡単に信じた。
花梨は小さな鞄ひとつで衝動的に空港に向かっていた。こんなふうに突き進むなんてどうかしている。衝動的に航空券を購入して空港に向かい沖縄を目指していたのだ。どうしても、じっとしていられなかった。
(哀しすぎて頭がどうにかなりそうなの。あなたの近くにいたい)
この人とは別のホームレスのおじさんが紙切れを見つけたという。
『因果応報。次は、おまえだ。建山輝。おまえのせいだ』
花梨は、その小さな文字を見た瞬間、真っ青になって身体中の血が凍り付いた。なぜ、ここに輝の名前が書いてあるのだろう?
「そんでな、犬の遺体は女子トイレにあるらしいんだよ。俺は、見てないが、先刻、入った女性が言ってたよ。俺は女子トイレに入れねぇし、区の清掃員は三日に一度しか来ないから、どうしようもねぇんだ」
哀しい事にマルは口から血を流して死んでいた。女子トイレの奥の個室に放置されていたのだ。
まるでボロ雑巾のような姿になっている。耐えられなくなって花梨はしゃがみこむ。熱い涙がとめどなく流れていった。怒りと絶望が貫いた。ドクンッ、ドクンっと悲しみが全身に脈打っている。
(こんなのイヤだーーー……)
花梨は、ひっくひっくしゃくりあげながら子犬を土に埋めていった。お墓作りを手伝ってくれたホームレスのおじさんが墓の場所が分かるように小石を積んでくれている。
「物騒な世の中だな。おいらの仲間も半グレの若造に殴られたことがあるんたぜ。お嬢さん、当分、来るのはやめときな。犬っころを殺した奴と遭遇するといけねぇ」
ホームレスのおじさんも困惑している。
「建山輝。脅迫状みたいな紙切れ名前が書いてあるが、もしかして、あんたの知り合いかね」
「はい、そうです」
「そんなら、この子にも気をつけるように教えてあげなさい」
花梨は会釈すると夢中でそこから駆け出した。
見えない恐怖がメモに集約されている。花梨は押し迫る恐怖と見えない敵について考え続けていた。
この時、ある仮定が頭に浮かんだのだ。
(もしかして、あたしがマルを死なせてしまったの。まさか……、マルは、あたしが過去に死なせた男の子の生まれ変わりなの?)
子犬を殺すような変質者に輝が狙われている。
「犯人は誰なの……?」
夕刻、花梨はキュッと唇を噛み締めてから決意していた。
『輝くん、今、どこ?』
メールを送ると返事が帰って来た。土曜からの三連休、沖縄の小さな島のホテルの前のビーチで撮影しているということだった。会いたい。今すぐに輝の顔を見たい。そうでないと胸が張り裂けそうだ。
「母さん……。あのね」
花梨は母親に嘘をついていたのである。舞子の家に泊まると告げると簡単に信じた。
花梨は小さな鞄ひとつで衝動的に空港に向かっていた。こんなふうに突き進むなんてどうかしている。衝動的に航空券を購入して空港に向かい沖縄を目指していたのだ。どうしても、じっとしていられなかった。
(哀しすぎて頭がどうにかなりそうなの。あなたの近くにいたい)