そうだ。思い出した。この人は、前に、路上で輝を冷やかしていた人だ。金色の髪が特徴的なので記憶に残っている。彼もマルの世話をしているらしい。
 
「そんなに怯えた目で見ないでください。怪しいものじゃないっスよ」

 輝と同じくらい背が高くて、全体的にガッシリしている。そして、その顔は秋田犬のように朴訥だ。

 花梨は黙ったまま見上げると彼は快活に語り出した。

「あっ、俺、本田って言います。輝から、あなたのことを聞いています。あいつ、照れ屋で無口なんですよ。でも、あなたの姿を見た後は別人みたいにニヤけているんです。だから、みんなして、輝のことをからかうと、あいつは真っ赤になるんだ。あっ、そんなことより、これ、あなたの指輪ですよね?」

 花梨は、黙ったままそれを受け取った。盗撮されたことに驚いたせいで、注意散漫なり、うっかり落としてしまったらしい。それは、花梨が指にはめていたオモチャの指輪だった。サイズが大きいので、ふとしたはずみで落ちてしまうのだ。今度から気をつけなければならない……。

「ありがとうございます! あたし、落としたことにぜんぜん気付かなかったな」

 指輪を手に取ると、ふっと安心したように微笑んで、もう一度、お礼を言った。

「ほんとうに、ありがとうございます!」

「いやぁ、別に、そんなに感謝されるほどのことじゃないっスよ」

 照れたように首を振ってから本田がボソッと呟いた。

「あの公園、変質者が出ることで有名な公園なんですよ。だから下校時間とか、暇があったら巡回してくれって言われていたんですよ。もちろん、犬の世話がメインなんだけど……。来て良かったな。輝が心配した通り公園にヤバイ奴がいたもんなぁ」

 盗撮と聞いて怖くなった。ここに来るのは控えた方がいいのかもしれない。

「あたし、うちで飼おうと思っています」

「本当? そりゃ、マルにとってもいいよね。いつ、保健所に連れ去られるか心配だったんだ。俺も輝の家も貧乏でさ、一軒家に住んでないからなぁ」

 彼は、花梨と並んで歩きながら語っている。

「俺の家は元々貧乏なんだけど輝の家は違うんですよ。あいつの家、金持ちだったのに親が事業に失敗したらしくて。父親が体調を崩しちゃって……。死んでしまって……。本当なら、元々通っていた私立の名門学校にいたはずなんですけどね」

 本田の話によると、輝は、工業高校では一番いい成績をとっているらしい。

「あいつ、俺等と違って頭がいいんです。就職するって言ってたあいつに教師は大学に行けって勧めたんです。あいつ、目立つことが苦手みたいなんですよ。あいつは、自分のことを根暗だとか言っています。その証拠に、あいつが女の子と喋っている姿を見たことがない。だから、俺、花梨さんとあいつが楽しそうに喋っている様子を見た時、感心しちゃいました」