翌週の月曜日も花梨はボーっとしていた。最近は、いつもこんな感じである。いや、元々、花梨は一人で静かに物思いにふけるタイプだ。昔から、おとなしい子だと言われてきた。

 女子大のカフェテラスは。お昼休み。花梨の悩みを知らない舞子が陽気に喋り続けている。

「自衛官が集う店に行く予定なんだけど花梨も行こうよ」

「ごめん……。あたしはいいよ」

「あっ、そっか。お酒が苦手だもんね。それなら、一緒にミュージカルに行かない? あたしの推しが主役をやっているんだ。遠藤正春くん、童顔なのに腹筋がバッキバキに割れてるの。ねぇ、カッコいいよね」

 舞子は押し活の為に、せっせとコールセンターでバイトをしている。

 その舞台は有名な漫画を原作にしているというが、花梨はアニメや漫画に疎いのでよく分からない。

 花梨は、舞子の話の内容を理解しないまま、適当に頷く。最近の花梨は奇妙な夢の世界に囚われている。頭の中がフアフアしており、ここではないどこかにいるような感覚が続いているのだ。

 輪廻転生。高校時代に図書館やネットで輪廻転生について調べたところ、何度も生まれ変わるというのは、どうやら仏教の思想のようだ。

 何度、生まれ変わろうとも同じ過ちを繰り返してしまう。過去の過ちの連鎖から抜け出して克服するのは難しいが、それを乗り越えたなら解脱できるらしい。舞子の話が途切れた時、ふっと、花梨は問いかけていた。

「ねぇ、舞子。前世の記憶ってあると思う?」

 いきなりの質問に目を丸くしている。それでも、いつも明るい舞子は屈託なく笑った。

「何、それ? まさか、変な宗教にはまったりしてないよね?」

「ううん。ちょっと気になって……」
 
 見城舞子は小学生の頃クラスメイト。たまたま大学で再会したのだか、その時、舞子はこう言ったのだ。
 
『うわー、奇遇たね。こんなところで再会するなんて縁があるんだね』
 
 そして、今では、かけがえのない友人になっている。
 
「うーん、前世かぁ。生まれ変われるのなら楽しいだろうね。身分の違いとかで結婚できなくても来世で結ばれるとか、そういう感じの漫画を読んだことがあるよ」

 そう言うと、舞子はまた自分の興味のある話題に引き戻そうとしている。

「あたしの推しのミュージカルも、ある意味、輪廻転生っぽい世界観だよ。彼女を死なせないために何度も過去に戻るの。メビウスの輪からどうやって抜け出せばいいんだよって叫ぶシーンが泣けるの!」

 この子は無邪気に好きなものを共有したがる癖がある。ひとしきり、ミュージカルの良さを語った後、また別の話題に移ったのだ。

「ねぇねぇ、知ってる? 隣の工業高にイケメンのモデルがいるんだよ」