『ベスも、かなりの別嬪だがベスは品がねぇ。でもよう、マレーナ、なんで、そんなに気にするんだよ。まさか、おまえもアルブに惚れているのか?』

『やーだぁ。違うよ。聞いてみたかっただけ。だって、アルブは誰も愛したことがないだろう。アルブって妙にクールなんだよね。お嬢様が好きなんだね』 

 そんな会話をしていたら、不意に、エレノアが売春宿にやってきた。エレノアは部屋に閉じ込められている訳ではない。アルブと愛し合うようになってからは、自由に街を散策しているのだ。娼婦のベスは、エレノアを見た瞬間、胸の中が焼け付くような感覚に襲われる。恋敵同士の出会い。一瞬のうちにベスの心に微妙な嫉妬心が滲む。

『エレノア、あんた、こんなところに何しに来たのさ?』

 ベスが、エレノア役のマリアの前に立ちギラギラとした強い視線を向けると、お嬢様育ちのエレノアは、一瞬、怯えたように後ずさりながらも相手を見つめ返していく。

『わ、わたしはマルを探しに来ました。あの子の帰りが遅いから心配で。どなたか、マルのことを知りませんか?』

『マル? ああ、マルスなら、島の外れの洞窟の辺りで見かけた。亀の卵を探しに行くって言っていたね』

 ベスはそう言って指で街の向こう側にある岬を指差す。

『そんなに心配なら、あんた見に行きなよ』

 しかし、ベスは知っている。本国の憲兵がこの島を訪れていることを。彼らはエレノアの行方を捜しており、何とか奪還しようとしている。

『マルスは岩場で滑って怪我をしているかもしれないね~ 探しに行きなよ』

 その場面の後、また、番組の司会者達の雑談に切り替わった。楽しみですねとか、マリアさんは綺麗ですねとか、当たり障りのない感想を言い合っている。そして、しばらくするとコマーシャルに移ったので、花梨はテレビの電源を切った。

(過去と現在は繋がっている。でも、誰が誰の生まれ変わりで、どんなことが起きようとしているのか、あたしには分からない) 

 マレーナという売春婦の女の子の姿を見ていたら、それは、舞子のようにも思えてくるし、こないだ少しだけ話をした女子高校生のようにも思えてしまう。

(今世にもマルスがいる。だとしたら、マルスの生まれ変わりは誰なの? 助けなくちゃ……)

 過去と現在を同一視視してを考えると、色々と不安要素が膨らんでいく。

(もし、そうだとしても、今は、あたし達は、『違う時代』を生きているんだもの。だから、必要以上に気にしちゃ駄目……)

 そう言い聞かせてはみたものの、前世の記憶が、どんどん流れ込んでいるらしい。

 そして、その翌日、花梨は、また過去の光景を見ることになるのだ。地中から根っこを引っ張り出されるかのかのように、少しずつ、それが浮上しようとしている。

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