どこかで見たような顔つき。いつか交わしたような会話。

 前世の記憶と現世が混沌と絡み合っているようである。喫茶店でバイトしていると言っていた女の子が転生していても不思議ではない。でも、敵ではなさそうだ。何となくだけど、そんな気がする。

 学校から帰ってきて、居間のソファに腰掛けると、すぐにテレビを点けた。奥様向けの情報番組を見ていると、ケイの姉のマリアが出ていた。次の舞台への意気込みを語っている。相変わらず自身に溢れていて綺麗だ。

 この世のすべての光を集めたかのようにキラキラしているマリアは、宣伝の為にインタビューに応じている。

『マリアさんの舞台に対する意気込みをお聞かせください。まずは、この海賊の船とはどういうお話なんですか?』

 女性レポーターの問いに、マリアが姫君の格好のままで艶やかな微笑を浮かべて答えた。

『主人公はエレノアは気高い貴族の娘です。婚約者の元へと向かう船の中で海賊に襲われて連れ去られます。本来なら憎むべき海賊のキャプテンのアルブを愛してしまいます。この話の見所は本当は好きなのに、立場上、相手を愛しているとは言えないというところです。揺れ動く女心をどうリアルに演じるか、試行錯誤しています。エレノアとアルブが織りなす愛の切なさをお伝え出来るように全身全霊でお芝居に取り組むつもりでおります』

 貴族の娘のエレノアはイーリスの生まれ変わり……。舞台によって自分の過去を晒されて暴かれていくような気分だ。花梨は、遠い昔の出来事から目を逸らしたくなる。

 自分の過去を演じるマリアは舞台に熱を入れているようだった。演者の本読みの段階の様子が映り、皆の気迫が伝わってくる。

 舞台の合間に行われたインタビューの後、画面は舞台稽古の様子へと移っている。そして、彼等の舞台のリハーサルの映像が流れたのだ。

     ☆

『あーら、久しぶり』

 それは、海賊達が根城としている小さな島の酒場た。売春婦達が媚びを売りながら近寄っている。

『ねぇねぇ、アルブ、あんた、最近、どうして店に来てくれないのよ。ベス姉さんが拗ねているわよ』

 すると、黙っているアルブの代わりに仲間の海賊が言った。

『アルブには貴族のお姫様がいるから安い売春婦なんかにゃ用はねぇんだよ』

『何なのよ。安くて悪かったわね』

 人の良さそうな新入りの娼婦マレーナが頬をふくらませている。陽気で無邪気だった。他の海賊達にお酌をしながら尋ねている。

『エレノアってどんな子? 男前のアルブが入れ込むぐらいだから綺麗な人なんだろうねぇ』

『そりゃ、べっぴんに決まっているさ』

 黒ヒゲの男がそう言うと、セシルが興味深そうにカウンターに肘をついた姿勢で尋ねた。

『町一番の美人のベス姉さんよりも綺麗なのかい?』