「舞子はそんな気を使わなくていいよ! それに、あたしと輝くんは本当に何でもないから!」

 それだけ言うと花梨は話を打ち切った。そして、舞子の気を逸らそうとして、花梨はスイーツを注文した。舞子はすぐに抹茶のパフェ食べることに夢中になったのだが、花梨はヒリヒリしたものを抱えていたのだった。


         ☆

 疑えばキリがないことだらけだ。普通に話しかけてきただけの人も見えざる敵と捉えてしまいそうになる。

 その日の夕方、花梨は、学校の帰り道、見ず知らずの女子高校生に背後から声をかけられてドキッとなった。

「ねぇねぇ、あんたも、やっぱりモデルなの? そうだよね! 写真、見たよ」

 突然、そんなことを言われて面食らい、怯えたように相手を見返していく。

 女子高校生は輝と同じ高校の制服を着ていた。花梨の苦手なタイプだった。その子の顔立ちが爬虫類に似ている。目を合わせないように花梨はコソコソと小さな声で返事をしていた。

「いいえ、違います。あたしはそういうのとは関係ありせん」

「んじゃさぁー、輝のカノジョなのー?」

 クッチャクチャ。女の子は噛んでいたガムをペッと地面に吐き出している。行儀が悪い。咎めるように花梨が地面に視線を落とすと、女の子はハッとしたように拾い上げた。

 そこは、煉瓦長造りの壁に蔦が絡むシックな喫茶店の前だった。

 喫茶、『海賊』という看板が目に入った。純喫茶と呼称される類の店で奥には蝶ネクタイのマスターがいる。女の子は、看板の近くにあった観葉植物の葉をちぎってガムを包んでポケットに突っ込んでいる。

「輝ってさぁ、先月、あたしの妹が告白しても断ったんだよね。好きな子がいるって言ったの。へーえ、そうなんだぁ。あんたみたいな清楚な真面目な子が好きなんだぁ」

 花梨は何も言わずに黙っていた。花梨を値踏みするように観察している。しかし、どうやら、彼女は花梨を睨んでいる訳ではないようだった。ふと、柔らかく笑ったのだ。チラリとこぼれる八重歯が可愛い。

「へーえ、輝が興味を持つだけあってすげぇ綺麗じゃん。これじゃ勝負にならないや。あたしの妹はエラの張った一重瞼の激ブスなんだわ。うちの妹を選ばないのは当然だな」

 なぜか話しているうちに、花梨は暖かな気持ちになる。奇妙な懐かしさみたいなものを感じいたのだ。それは向こうも同じだったようだ。
 
「あれれ、あたしと前にどこかで会ったことある?」

 不思議そうに質問してきた。花梨は慌てて首を振る女の子が白い歯を見せた。

「だよねー。どうしてなのかなぁ? 昔から知ってるような気がしてしょうがないわ」

 花梨の肩をポンッと気さくに叩いてから、こう言った。

「わざわざ引き止めてごめんね。輝って、どんな女に興味を持つのかなぁって前から知りたかったの。んじゃ、ばいばーい」