「そう言えば、こないだ、輝くんがこっちを向いて手を振っていたよね! やっぱり、あれって、花梨に振っていたんだね……。ひどいよ! 花梨ったら水臭いよ!」

「ごめんなさい……」

 それだけ言うと花梨は泣きそうな顔になって俯いた。混乱すると眉尻を下げて黙ってしまう。これは花梨の悪い癖。悪意のある人なら、花梨の弱々しさをうざいと感じるだろう。しかし、舞子はサバサバとした性格なので肩を叩いて明るく笑った。

「やだぁ。花梨。あたし、あんたを責めている訳じゃないよ! 応援するってば!」

 花梨を励ますように言う。

「あたし、輝くんは花梨のことを好きなんだと思うよ。女のカンが疼いたの。だからさぁ、本当はどうなのかなぁと思って聞いているだけだってば!」

「違うよ。舞子……。ただの知り合いなの。伯母さんがアパレル関係の仕事をしててパーティーで色々な人と知り合ったの」

 前世の繋がりがるなんて言えやしない。言ったところで理解されない。

「あたしと輝くんは好きだとか付き合ってくれと言われた訳でもないの。たまたま写真のモデルになっただけ」

 アドレスは交換したが定期的に連絡を取っている訳でもない。

 しかし、舞子には赤い糸が透けて見えるのか、自身ありげに呟いている。

「でも、花梨が演技できるとも思えないよ。リアルに愛し合ってる感じがする。特に、輝君の視線がヤバイわ。ゾクゾクする。この写真、何かすごく意味深だよね」

 そうなのだ。こうやって、改めて眺めると、時空や時代を超えて集まってできた記憶の結晶を見ているような気分になる。

 何と言っても二人をとりまく空気が切ない。舞子は感心したように呟いていた。

「ねぇ、花梨。チェンっていう人はきっと天才だよね……。見ているこっちがドキドキしちゃうよ。キュンキュンを超えて胸が苦しくなるの。そんな写真を撮る人ってスゴイよね」

 一瞬を切り取って、それを永遠のものにしてしまう。舞子は、それを見て美しいと感じて感動している。

「輝くんの隠れた一面を見たような気分だよ。あたし、カッコいいって言ってミーハーに騒いでいたけど、この写真の輝くんはすごく色っぽくていいなぁって思うの。リアルな輝くんを見せつけられたような感じがする」

 天然パーマで少し頬にニキビのある舞子が屈託の無い顔で告げている。

「もし、花梨と輝くんが、仮に付き合っていたとしても、みんなには秘密にするよ! 例え、おまわりさんに尋問されても言わないよ!」

「えっ?」

 その時、花梨は胸がキュッと軋んだ。

(もしかして、舞子がテリを慕う愛らしいも小姓の生まれ変わりなの?)

 恋人たちの側にいる可愛らしい存在。その人物は恋人たちを応援したが故に死ぬことになる。

「ダメ!」

 花梨は我知らず大声を出していた。