なるほど。花梨にも、この悲劇の本質が分かってきたような気がする。

 イーリスはテリを殺す。テリはライラを殺す。テリを慕う少年はテリを庇おうとして殺される。
 
 この三つの死が、生まれ変わる度に繰り返されてきたというのだ。

「お、教えてください! 性別は生まれ変わっても同じなのですか?」

「いいや。時として性別が変わることはあるよ。だが、背負っているものは変わらない」

 同じことが繰り返されるというのならば、今世で、輝が誰かを死なせてしまう。そうして、最後に花梨が輝を殺すことになる。

 そんなこと、起こる訳がないと思いたいけれど気になった。兄は、輝のことをどう思っているのだろう。兄は、チェンの撮った写真を見た時、渋い表情をしていた。
 
 もちろん、ライラの生まれ変わりが兄だとは限らない。いずれにしてもテリとイーリスの関係者は自分達の近くにいる。

「だけど、輝君が誰かを殺すなんて考えられない。あたしも輝君を刺し殺したりしない」

「似たようなことは起こるだろうね。事故という形で死なせるのかもしれない」

 占い師のギバは花梨の手を握り締めて小さく首を振った。
 
「彼を愛しているんだね。その指輪は彼からもらったのだよね? あんた、妊娠はしてないようだね」

「当たり前です。そんなことはしません」

 でも、愛してはいけないのに惹かれている。オモチャの指輪はサイズが全然合わないので親指にはめているのだ。

 しばらく、哀しげな沈黙が続いた。ギバが優しい眼差しを向けて、よしよしと花梨の頭を撫でている。
 
「泣くのはおよしなさい……」

 キバも自分の運命を受け入れるまでに時間がかかった。平和な時代に生まれたことには感謝しているが、今回も女として生まれたかった。性別のことで悩んだこともある。田舎の家族から勘当されてニューハーフの占い師として何とか食いつないできたが、十年前に癌を告知された。抗癌治療の最中にギバは前世のすべてを思い出したのだ。
 
 死の恐怖が高まれば高まるほど記憶が鮮明になる。何とか癌を乗り越えたが一年前に再発した。この時、ギバは自分の使命を悟ったのである。
 
 今度こそ運命の傷を修復するのだ。ギバの余命は半年足らずだ。
 
 最近、こうやって誰かを占う事さえも億劫になっている。ギバは息を吐くようにして呟いた。

「あたしは思うんだ。運命を変えられるのは、あんただけなんだよ」