最近、花梨はテリとイーリスにの夢を見るが、あれが、ケイの言う前世の記憶というものなのか。まだ、そこのところが曖昧だ。いつのまにか車は動き出していて、ケイの姿も見えなくなっている。

　兄が、運転しながら言う。

「あいつ、大学三年の頃に癌になって大学を中退したんだよ。回復したのかな？　でも、あんまり健康そうには見えないな。元々、喘息持ちで青白い顔をしていたよ」

　以前、ケイと妙な会話をした事を兄には打ち明けていない。何となく、言ってはいけないような気がしたからだ。
　
　ケイとのやりとりがずっと心に引っかかっていた。兄に対して探りを入れるようにして尋ねる。

「あの人、肌の色も白くて髪も茶色いね。なんだか不思議な人だよね」
　
「ああ、ハーフなんだ。母親はロシアか北欧か忘れたけど、外国人だ。他校の女の子達からは熱狂的に愛されていたけれど、うちは男子校だし、クラスでは目立たない奴だったな」
　
　あの人のことが気になる。でも、知るのが怖い。

『会ってはいけない。おまえ達は出会ってはいけない』

　この間からずっとこうだ。遠くから流れてくる幻聴のようなものが脳裏にまとわりついている。
　
　ケイに会えば、この奇怪な現象が何なのか分かるような気がするけれど、自分から近づくのは怖い。でも、胸にこびりつく不安や奇妙な夢の意味を知りたい。

（あたしの頭はどうなっているの？）

　胸の中は不安を煽り立てるかのように泡立っていたのだ……。