「花梨、こいつ、どんな男だ?」

「マリアさんの後輩モデルの建山輝さんだよ」

 すると、兄は何か考え込むように神経質な面持ちのまま目を細めた。

「どこかで見たような気がするな。なんとなく好きになれない。気を付けろよ。年下だろうと男は男だ。いや、むしろ、高校生の男子の性欲はやべぇぞ」

「何を言ってるのよ」

「そうよ。下品な事は言わないでちょうだい」

 母が嗜めたというのに兄は厳しい顔のまま言う。

「花梨は免疫かないからこそ、ちゃんと言っておくべきなんだよ。いいか、花梨、デートの途中、飲み物に薬を入れて眠らせる事件が多発しているんだぞ。こないだ、うちの病院に運ばれてきた女子大生はマッチングアプリで知り合った男に酷い目に合わされたんだぞ」

 シリアスな顔つきになっている。多分、デートレイプなどの犯罪を心配しているのだろう。

「輝くんは真面目だよ。学費を自分で稼いでいるんだよ」

 けれども、なぜか、兄は、積年の敵を見据えるような怖い顔になっている。

「そうだとしても、おまえ、こういう奴とかかわらない方がいいぞ。こいつは、おまえに相応しくないからな」

「……」

 輝との交際を反対する理由は何なのだろう。まさかと思うけれど、これも、前世の因縁が関係しているのだろうか。それとも、保護者気取りなのか? この段階では、なんとも分からなくてモヤモヤしてしまう。

「それにしても、伯母さんも迷惑だよな。本当はケイのことなんて心配していないんだぜ。ていうか、ケイもケイだよ。なんで、あいつは、おまえのことが、そんなに気になるんだよ」

 その言葉には棘のようなものがある。兄は花梨に近寄る男のすべてを嫌っているようなところがあるのだ。花梨は何とも言えないまま黙っていたのだが、兄は、ムスッとしたまま新聞を広げている。

(輝くんは、いい子だよ…)

 連休の間に輝との距離が一気に縮んでいることは確かだ。花梨は、輝と過ごしてからは輝のことで頭が一杯になっている。誰かが輝を悪く言うと、花梨の胸がヒリヒリとしてきて反論したくなる。

 いつのまにか、彼は花梨の心を大きく占めていたのだった。

(砂浜で砂遊びをしている時、感じたわ。昔、あの人に守られて生きてきたのよ)

 その翌日。花梨は欠伸を漏らしながら朝食を食べ終えると大学に向かったのだが、今日の花梨は寝不足だった。というのも、ケイから送られてきた「銀の城」の舞台の脚本のデータを最後まで読んだからだ。

 その舞台はテリとイーリスの幼少期の出会いに関しては深く描かれていない。王が、イーリスと婚姻して、そこから始まる泥沼の不倫劇が事細やかに描かれている。