「うわー。可愛らしいですね。これは河川敷の中学生のカップルなのかな」

 こういう写真を見ると自分も甘酸っぱくなってくる。

 花梨は色んな年代の恋人達の姿に見入っていた。桃の収穫をする老夫婦もいれば、新宿二丁目のゲイカップルもいる。生まれたばかりの赤ちゃんの頬にキスする異国の夫婦もいる。

「それぞれの愛の形があるんだ。どれも、かけがえのない一瞬だよ」

 白人、黒人、アジア人。ユダヤ人。アジア人。あらゆる人種のカップルの姿がそこにあるのだ。

「こっちは世界の挙式のシーンだよ」

 イスラム教徒。ヒンズー教徒。遊牧民。アフリカの部族など、普段、眼にすることがないので、なかなか興味深い。こんなにも多種多様な愛の瞬間があるのかと感心してしまう。

「君たちは付き合ってるのかな? お似合いだね。まるで、お姫様と王子みたいだね。あっ、輝君、明日も撮影があるから、そのつもりで。じゃぁね」

 チェンは、また別の被写体を求めて去っていったのだった。チェンは、黙って見過ごせば消えていく一瞬を求めて園内を散策しているようだ。

「チェンって精力的だよな」

 花梨と輝は、お互いに顔を見合わせてクスクス笑っていた。二人とも、敢えて付き合っていませんと否定する事は無かった。でも、輝は困ったように苦笑している。

「ていうか、先刻の聞いた? 俺が王子? ありえないな。俺は貧乏人そのものだよ」

「あたしも……。姫じゃない方がいいなぁ」

 だって、姫じゃないから、こんなふうに輝とデートできるんだもの。

「あつ、忘れてた。これ、花梨ちゃんのために取ったんだった」

 輝は、青いサファイアのような色の石のついたオモチャの指輪をポンと手渡してくれた。しかし、残念な事にサイズが合わない。ブカブカだった。

「花梨ちゃんは指が細いんだなぁ」

 くすぐったくなる。年下の男の子にこういうふうに女の子扱いをされるなんて、とんでもない贅沢をしているような気持ちになる。男の子から指輪をもらうなんて初めてだ。

「そろそろホテルに戻ろう。明日も、輝君は、撮影、あるんだよね? あたしは、明日の朝、伯母さんと一緒に家に帰るんだ」

「俺は、まだここにいる。明日の朝、なんとかっていう外国のブランドの広告の撮影だよ。海辺で撮るみたいだ」

 もっと一緒にいたいがそうはいかない。遊園地のゲートを出ると駅に向かう巡回バスを待った。

 輝は星空の下で左手の薬指をじっと見ている。輝と花梨は、そのままホテルへと戻り、そのまま別れたのだ。