夜、ホテルにいても何もすることのない花梨は喜んで遊園地に向かった。輝と一緒にいてはいけないと心で分かっていても自然と引き込まれてしまう。

「あっ、あのオモチャの指輪、可愛いね!」

 入園しすぐに、花梨は、透明なカプセルに入ったガラス細工のキッチュな指輪に引き込まれ、じっと見つめたのだ。欲しがる様子の花梨のために、輝が、前のめりになりクレーンゲームに熱中している。

「やった! とったぞ!」

 輝は無邪気だった。

(ふうん。いつもは大人っぽいのに、こういう一面もあるんだなぁ)

 チラチラと横顔を盗み見ながらもワクワクしていた。輝と一緒にいると心が躍る。その後、二人で一緒に回転木馬に乗った。そして、大きな観覧車にも乗った。

 まるで、二人きりで宇宙船にいるかのようだ。

 ゆったりと自転する観覧車の中から満月を眺めるのは面白い。

 その時、なぜか、ラクダで夜の砂漠を旅しているような感覚になり、胸がジンとなった。多分、夜の砂漠では月をずっと見ていたからかもしれない。そして、観覧車から降りたのだが……。

 歩きながら輝が意外な事を言い出した。

「夕方、ユウジが俺に対して怒っていただろう。その気持ちは少しは分かる気がするんだ」

 自分達を取り巻く遊具からは小さな子供達の笑い声が響いている。休日なので親子連れが多いのだ。そんな中、輝が、真剣な眼差しを向けている。

「俺、宇宙工学とかロボット工学の勉強をしたくて工業高校に入ったんだ。ぶっちゃけ、洋服に興味はない。モデルは今すぐにでも辞めたい。生涯の仕事としてモデルをやっている奴が俺をウザイって思うのは当たり前だ。でも、大学に入るために金も欲しいんだ。だから、精一杯、頑張っているつもりなんだけど、今日みたいに落ち込むこともある」

 彼なりに葛藤しながら働いているらしい。

「モデルのバイトするようになってから、変な手紙が来るようになった。見ず知らずの奴に絡まれたりする」

「へんな手紙って?」

「うん。ストーカーみたいな手紙とか恐喝の手紙が一番ヤバイんだよ。おまえの過去をばらしてやるみたいな内容の手紙だ。そいつの手書きの文字が不気味なんだよ。ひどい癖字で呪うような事を書いてる」

「もしかして、嫉妬しているんじゃないのかな?」

「嫉妬?」

「輝くんはカッコいいから目立つんだよ。あたしの友達が騒いでいた。撮影を見ていて、あたしも思った。輝くんはスタイルがいいし、立ち姿が凛としている」

「えっ? マジか? 本当にカッコいいと思った?」

 子供みたいに喜んでいる。謙虚な人だ。みんな、カッコいいと思っているはずなのに……。

「花梨ちゃんが、そんなふうに言ってくれるなんて。ヤッター! モデルやってて良かったよ」