抜け目なく観察するかのように花梨を見つめている。しかし、輝と一緒にいるからといって、この男に非難される筋合いはない。

 でも、ふと、車の中で、マリアと輝の二人が親しげだったことを思い出す。

「あの、もしかして、輝くんって、マリアさんのことを好きなの……」

「まさかっ、あの人、婚約者いるぜ。仕事を紹介してもらっただけだよ。でも、モデルの仕事も、正直、向いてないと思っているんだ。だから長くやるつもりもないんだ」

「何だよ。向いてない奴が表紙を飾っているのかよ!」

 ユウジは、唇を歪め、細い眉を寄せている。
 
「てめぇは、マリアの飼い犬だ! この貧乏人! いい加減、とっとと、事務所から消えろよ! マジで、おまえを見ていたらムカムカするぜ」

 バサッ、やけにお洒落なシューズでユウジが砂の山を蹴り上げると、こんもりとした山は簡単に崩れ落ちてしまった。

「えっ?」

 いきなり、輝と花梨の手が露になり、ユウジがクイッと眉頭を寄せて顔をしかめた。二人の指がキュッと合わさるように絡んでいることに気付いたのだ。

 ユウジの視線が二人の手元に注がれている。指を絡めている場合ではないと分かっているのに、花梨は、その指を自分から離すことができなかった。

 ユウジは、驚いたように二人を見下ろしていたのだが、どこか邪悪なものを漂わせながら言った。

「へーえ、なるほど。おまえらは、そういう関係なのかよ? おまえ、やっぱり、手か早いな」

              ☆

 ユウジは嫌味を言うと立ち去った。

 輝が言うには、ユウジは他のモデルにも嫌味を言っているが、やっていることは少女漫画のいじめっ子みたいなもので、たいしたことはないという。

「俺さぁ、男子校だから、先輩に目をつけられて思いっきり腹を蹴られたこともあるんだ。ユウジなんて、それに比べたら天使様だよ。どうってことないさ」

 輝は、とてもサッパリとした気性のようだ。

(やっぱり、あたしは、この人のことが好きだわ)
 
 その夜、花梨達はファミレスで御飯を食べた。この時、輝がモデルになった経緯を話してくれたのである。

「たまたま、代役として舞台に立たされたんだ」

 輝の家庭の経済状況は思わしくない。母親と二人で公営のアパートで暮らしてるという。

 ひとしきり、自分の事を語った後、輝が明るい声で切り出した。

「良かったら、気晴らしに遊びに行かない? 俺、遊園地のチケットを広告会社さんから二枚もらっているんだ」

 夜の遊園地に誘われて胸が躍った。自宅にいたなら、夜にでかけるなんて有り得ない。しかし、今夜は花梨を監視する者などいない。同じホテルにいようとも、伯母は、花梨に無関心だ。