二人は流木に腰かけた。輝は地良さそうに沈む夕陽を見つめている。輝は、スッとしゃがみこんで棒切れを握って何かを描いている。

「何なの?」

 花梨は背後から外国の文字をじっと見つめると、彼は困ったように苦笑した。

「さぁ、俺にも分かんない。子供の頃、高熱を出した時、クレヨンを握って、この文字を書いたらしいよ。あとで調べたらラテン語だった……」

「ラテン語?」

 英語は得意な花梨もラテン語のことはよく分からない。

「古代ローマを舞台にしていた漫画の中でラテン語を使われていたよな? 昔のヨーロッパで使われてたんだ。それがラテン語だと教えてくれたのは、俺の近所に住むポルトガル人の宣教師の老人だよ」

 輝が地面に書いた文字を見た途端、老人が不思議そうに尋ねたというのだ。

 おやおや、坊や、何を見つけたのかねと……。

「ついにみつけた! そういう意味の言葉を子供の俺が書いたらしいよ」

「無意識に書いたのね」

「うん。そうみたいだ」

 花梨は妙な浮遊感に包まれていた。彼は、夕日に溶け込むような静かな声で呟いている。

「こういう砂浜を見ると心がザワザワして頭がホワンとなるんだ。砂の手触りって懐かしい気がする」

「確かに、そうだね」

 花梨は子供みたいにしゃがんで砂の山を作り始めていた。輝も砂を集めて大きな山を作っている。側面から手を入れて、どんどん掘り進んでいくことにした。

「みつけたー!」

 砂の山の中で、お互いの指先が出会った時、輝が屈託なく笑った。お互いの指と指が砂の中で繋がっている。

 輝の指先から伝わる熱のようなものを感じて頬を染めていると、彼は、どこか苦しげに尋ねてきた。

「あのさ、マリアの弟の慧さんと君は婚約しているって本当?」

「ううん。婚約なんてしていない。違う。マリアさんが勝手にそう決めているだけ。あたしは、ケイさんのことは友達だと思ってる」

「……そうなんだ」

 輝が気を取り直すように頷いている。でも、その時、背後から嫌な声が聞こえてきたのである。

「おい、おまえら、何をやってんだよぉ?」

 日時計のように長い影が花梨達に覆いかぶさってきたのでサッと振り向くと、ハーフモデルののユウジが立っていた。お洒落なジャージ姿だった。どうやら、ランニングをしに浜辺に来たらしい。

「テル、おまえ、マリアだけじゃなくて、マリアの弟の婚約者にまで手を出してんのかよぉ? 見かけによらず、お盛んなんだな」

 馬鹿にするような口調と憎らしいものを見下す目付き。自分達への嫌悪の色がはっきりと示されている。

「それに、その女も、おとなしそうな顔してよくやるぜ。婚約者をほったらかしにしていいのかよ」

「違うわ! あたしはケイと婚約してない! 友人よ!」

「ふうん。そうかよ」