砂漠の国で武官をしていた時の彼は、どちらかというと生真面目的な雰囲気だったのに、賊になった時の彼は乱暴だった。

(アルブ……。あたしが愛した人。その面影は胸に残っている……)

 凪の海。嵐の海。帆船の舳先から見る光景。海賊達が撃ち放つマスケット銃の音。過去から、こっちにおいでよと手招きされている。

(アルブ……。あたしを、そんなふうに見ないで……)

 繰り返される。波の音……。

 いつのまにか、花梨は記憶の沼に沈み込んでいた。もう、自分がどこにいるのかも分からなくなっている。

 数分、目を閉じただけなのに、悠久の時の満ち干に誘われるかのように眠りの中に落ちていたのだ。