愛するエレノアを忘れることができなくて探し続ける王子がいる。海賊のアルブに片目をつぶされた海軍の少佐のモンタレバーノもいる。どちらもアルブを捕らえるために必死になっている。

『わたし達は生まれも育ちも違う。あなたはお尋ね者よ。そんな海賊のあなたのことを、こんなにも好きなのは、いったいなぜなのかしら……』

 エレノアは、裸で抱き合いながらアルブに呟くのだ。

『でも、ここに来た当初、おまえは、オレが抱こうとすると物を投げつけて腕に噛み付いたよな』

『そうよ。大嫌いだったもの』

 しかし、その気の強さに、アルブは怯むことなく彼女を抱いた。アルブの強引な愛にエレノアは呑み込まれて、いつのまにか恋人同士にになっている。

(前世のことなんて知らぬまま、二人は出会ってしまったのね)

 金持ちの令嬢であるエレノアを人質にして身代金を受け取るつもりだったのに、そうすることも出来ないまま共に暮らしている。

 アルブは迷い続けていた。窓からは細い三日月が見える。心細げな頼りない月明かり。こんな夜は迷いが生じる。そろそろ陸を離れて海賊稼業に戻らなければならない。
 
 その時、この姫君をどうすればいいのだろうか。
 
『わたし、王子と結婚なんてしたくない……』

『俺もおまえを決して誰にも渡さない』

 二人は互いに愛を誓い合う。けれどもエレノアには分かっている。

『追っ手に捕まるようなことになったなら私も一緒に死ぬわ。あなたなしでは生きていけない……』

 呟いた瞬間、涙が頬を伝い落ちていた。そこで花梨はハッとしたように目を開いた。知らぬ部屋。ここはホテルの一室。ああ、そうか。またしても夢を見ていたようだ。イーリス以外の夢を見たのは今回が初めてだ。

「すごく、リアルだったな……」

 詳しいことは分からないけれど、海賊にさらわれたエレノアの切ない気持ちは、ヒシヒシと伝わってきた。

 好きになってはいけない相手を想えば想うほど、エレノアの葛藤と愛は深まっていくのだ。

(あの二人は、最悪の出会い方をしてしまったんだわ)

 貴族と海賊との愛なんて長続きしない。そんなことは、二人とも最初から分かっているのだ。

 だけど、優しい婚約者がいながら、会ったばかりの海賊に夢中になるなんてどうかしている。ほとんど無意識のうちに花梨は呟いていた。

「どうかしているわ。いつも同じことの繰り返し……」

 泣き出したいような気持ちに駆られていた。
   
 この夢は、輪廻の輪から発せられる警告なのかもしれない。でも、こんなふうに過去の過ちを見せられても、どうしようもないのだ。