「彼は、自分の出世の為にテリを執拗に追う。次にテリが生まれ変わって地中海の海賊になった時はユウジは海軍の少佐となって現れる。いつも、両者は敵対する。それが二人の宿命なんだ。テリの首をとるとこで報奨金を得ようと必死になる。少佐は海賊を討伐しようして砲弾を撃ち込むんだ」

「……そうなんですか」

 イーリスだった時の宰相のことなら覚えている。しかし、他の世界での出来事は分からないのだ。
 
 でも、悲劇は繰り返されてきたようだ。

 ネチネチと邪なことを仕掛ける蛇の様な男。そのイメージがフアッと頭の中で蘇えり、ザワッとした黒い影が心に宿った。

「運命は動き出している。でも、今度こそ、君には幸せになってもらいたい。僕は、今回、君と結婚するつもりはないから安心していいよ」

 ケイは、花梨の心を見透かしたように微笑んでいる。ケイは若くして老成している。どうして、こんなに素晴らしい人を裏切り続けたのだろうか胸が痛む。

 せめてもの罪滅ぼしに、精一杯、ケイに尽くしたいという気持ちになる。

(あたしのせいで、この人も過去に何でも苦しんできたのね)

 療養中なのに遠出をしたことで疲れたのだろうか。ケイの顔色が悪いように思える。

「ごめん。僕は、先に部屋に帰って休むね。何だか疲れたよ。人に酔ったみたいだ……」

「それなら、あたしも一緒に部屋まで付き添います。あたしも疲れました」

 長い廊下を歩くのも辛そうに見える。ほっておけない。ケイを部屋まで送り届けて帰ろうとすると、花梨を呼び止めた。 

「ちょっと待って」 

 一旦、部屋に入ると何かを録画したと思われるディスクを差し出した。
 
「君に観てもらいたい。これは銀の城の舞台を撮影したものだよ。これを見れば、僕の目から見た記憶が君にも分かる。もちろん、時代背景や人物の名前など細かいところは変えたが、実際に起きた出来事の骨格は変えていない。あくまでも、これは僕の視点か見た物語なんだけど、参考にして欲しい」

「あっ、さっそく見てみます」

 花梨はエレベーターに乗ると、そのまま一直線に五階の自分の部屋に戻った。幸いなことにお喋りで身勝手な伯母とは別室だった。

 華やかなパーティーの場には戻りたいとは思わない。

 先刻、会場から出る直前、チラリと確認したのだが、輝は、雑誌関係の人たちに囲まれていた。編集者、カメラマン、ライターといった職種の中年女性の輪の中にいる。背が高いので人が群がろうとも彼の顔は見える。

 パーティーが始まる前に輝と会った時、彼は、花梨に対して何も言わなかった。

 花梨も黙っていた。短いドライブの間、ケイと花梨と輝は窓の外を見ていたのである。マリアだけがずっと陽気に何か喋っていた。マリアは運転しながら何度も輝の腕や肩にさりげなく触れていた。花梨は、その瞬間、グッと気持ちが揺らいだ。