ケイの横顔を見つめると、彼は、涼やかに微笑んでいた。ケイは前世の世界では夫だったのだ。一緒にいることが気恥ずかしい反面、懐かしいような気持ちがあり、何とも言い難いものがある。

 夢の中でもそうなのだが、イーリスは王を裏切ってしまうが、決して王を嫌っていたのではない。

(イーリスは王を心から尊敬していたわ……)

 一方、王もイーリスの不貞に気付いているのに少しも責めていなかった。そして、今のケイからも恨みのような感情が感じられない。

 少し、車を走らせると最寄駅のロータリーに着いた。辺りには高いビルや歓楽街もなくゴーストタウンのように閑散としている。マリアが車を停めてすぐに思いがれない人が構内から出てきた。

「マリアさん、どうも、わざわざすみません」

 銀色の小さなスーツケースを手にした若い男性が、ガンガンと近付いてくる。

「あら、いいのよ。さぁ、乗ってちょうだい」

 マリアがその人を助手席へと座らせた。

(えっ、なんで、輝君がここに……)

 花梨は固まったまま、膝の上で拳を握り締めていく。まさかという気持ちで眩暈を覚えてしまった。

(こんなの最悪だわ……)

 イーリスとテリと王の三人が集まってしまっている。

「輝くんに紹介するわね。弟のケイよ。隣にいる女の子は婚約者の大河内花梨さんよ」

 なぜ、建山輝がここにいるのか。理解に苦しみながら花梨はオドオドしていた。
 
「婚約者?」

 確かめるように輝が聞き返している。こちらを振り返る目が不安定に軋んでいる。いつも野生動物のように凛としている彼の表情が、その時、一気に曇ったのだった。

                     ☆

(四人のドライブは、あまり楽しくなかったな……)

 その夜、マリアの二十八歳の誕生日パーティーが始まった。大広間には有名人や政財界の大物が顔を出している。ふと見ると、花梨の伯母は、政治家の妻と談笑していた。

 テレビのワイドショーでよく見かける映画評論家やスタイリストもいる。マリアの婚約者の松竹隼人も存在感を放っている。フランスと日本のハーフモデルのユウジは特に華やかだ。欧州のハイブランドと契約しているユウジの洋服のセンスは際立っており、やはり一流モデルは凄いと思わずにはいられない。

 パーティーの華やかな渦の片隅でぼんやりしているとケイが囁いた。

「君はユウジのことは覚えてないの? ユウジはイーリスを憎むアランスの言いなりになっていた宰相なんだよ」

 ユウシも輪廻の輪の中の住人だと知らされて背筋が震えてきた。