「高熱にうなされたよ。そして、前世の記憶を完全に思い出した。どうすればいいのか分からなかった。何の罰なのだろうって思ったよ。お見合いのことなら深く考えないで欲しい。君に会うための口実だよ。姉が、珍しく僕のためにいろいろしてくれている。人の多い場所が苦手なんだ。外で話さないか?」

 二人は肩を並べての整備された庭の遊歩道から浜辺へと向かった。伸びやかな空気と小波の音と海風が心地良かった。

「体調はどうですか?」

「残念ながら、癌が再発した。いつも、僕と君の前で彼が先に死んでいた。それなのに今回は違うみたいなんだよ。これはどういうことが分かるかい?」

「いいえ、分かりません」

 何となく庭園の遊歩道を歩いているうちに、グルッと一周してホテルのエントランスへとに戻ろうとしている。

「僕は君とは結婚しない。出来ないと言うべきかな。ガンを克服できない。残り少ない人生を悔いなく生きたいと考えている。君の幸せを心から願っているんだ」

 物腰は優しいが、ケイは心の軸がしっかりしている人なのかもしれない。死への怯えのようなものを発していない。すべてを受容しているかのように泰然としている。

「君が愛する男の子を今度こそ死なせないように陰からサポートしたいと思っている。何かあれば相談して欲しい。それが僕の本心なんだ」

「ありがとうございます。それじゃ、あたしも何かあれば連絡しますね」

「今夜、姉さんの婚約発表も兼ねた誕生パーティーが開かれる」

 伯母は、雑誌編集者やテスタイリストの他に政財界などの人達との人脈を作りたがつている。

 だからこそ、マリアの父親と仲良くしておきたいのだろう。

 恥しい話だが、花梨は誰とも付き合ったことがなかった。男子に対しては苦手意識を持っていたのだが、ケイに対しては緊張せずに話せる。やはり、前世に夫婦たったせいなのだろうか。彼は、花梨のすべてを理解しているかのような眼差しを向けている。

 互いに連絡先を交換し終えた時だった。脇から、クラクションを鳴らされていた。

「あら、あなた達、もう、仲良くなったの?」

 華やかな真っ赤なオープンカーを運転している美女がサングラスを外した。テレビや雑誌や舞台で見るマリアの迫力に息を呑む。花梨は緊張の面持ちで軽く会釈すると、彼女がクスッと微笑みを漏らした。

「ねぇ、ドライブしない? 海岸線の景色が綺麗なのよ」

 花梨は頷くしかなかった。今回、マリアとは初対面なのだが、マリアは花梨を招き入れながら言う。

「あたし、駅まで知人を迎えに行きたいんだけど、いいかしら? 四人でデートしましょうよ」

 何だかおかしなことになっている。誰もノーとは言えない雰囲気だった。

 花梨は外車の後部席に腰かけていく。