マフィン、サンドイッチ、フルーツケーキ、そして濃厚なミルクティー。どれも素晴らしい。

　臆病な花梨をリードするようにケイが静かに切り出している。

「また、会えたね。何回も僕らは出会っている。この意味、分かる？」

「はい。今なら、あたしにも分かる気がします。あなたは、イーリスの夫になった王様ですよね」

　どうしよう。こんな状況で、どう接すればいいのだろう。ケイは切なさを帯びた表情で苦笑している。

「思い出してくれてありがとう。こんな形で呼び出してごめんね……。僕等が最後に会ったのは、第二次世界大戦中のドイツだった」

「ごめんなさい。ドイツに関する記憶はまだ思い出していません」

　彼は憂いを帯びた顔をしながらも、まっすぐに花梨を見詰めている。
　
「そうか。とにかく、いつの世も、君は、何度も彼を死なせてしまう。それは、分かるよね？」

　遠慮がちに語っている。包み込むような柔らかな笑みを浮かべているが、ケイが微かに怯えていることもこちらには伝わってくる。
　
「僕が高校生だった頃、君の家で会ったことがあったね。君は、変な人が来たって顔で泣きそうになっていたよね？」

「はい。あの時は怖かったです。理解したのは最近なんです。あなたに輪廻転生の話を聞いて以降、断片的な記憶の欠片を感じ取っていました。こないだ、テリとイーリスの幼少期の絆を知って切なくなりました」

「イーリスと王と出会う前の出来事の詳細はさすがに知らなかった。でも、子供の頃からイーリスとテリが知り合いだった事は僕も知っていた。実は、僕も高校生の頃は、ぼんやりとした記憶しか持っていなかった。徐々に何代にも渡る不幸な関係性が見えてきたんだ」

　花梨は熱心に耳を傾けていた。これから何が起きるのだろう。この人は、何をとこまで把握しているのだろう。もっと詳しく知りたい。

「あたし達、どうなるんですか？」

「僕にも分からないよ。僕等は、前世の過ちを繰り返してきたんだ。その原因は何だと思う？」

「悪いのはあたしです！」

　追い立てられているかのような気分になる。なぜ、そんな台詞を口にしているのか分からない。
　
「イーリス、あの女は身勝手です。結局、誰のことも愛してなかった」

「そう思う方が楽だね。でも、そうじゃないと思うよ」

　すべてを許すような微笑を浮かべている。

「もしかしたら、僕等は、今度こそ運命を変えられるのかもしれない。もう、こんなことを終わりにしたい。抗癌剤を打った夜、過去の記憶のすべてを思い出してしまい、気が狂いそうになった」

　ケイの絶望や哀しみが表情から滲んでいる。