当然のことながら、伯母が持ち込んできた見合い話に花梨の家族もポカンとしていた。後日、伯母が、また来たのだ。伯母は花梨の父より七歳も年上だ。伯母を刺激しないように父がやんわりと告げた。

「姉さん、いくらなんでも早過ぎるよ。なぜ、まだ学生の花梨がお見合いをする必要があるのか分からないな」

 花梨と同じくらい内気な母は困ったように見守っている。その脇にいる花梨の兄が呆れ気味に反対している。

「伯母さん、言っておきますが、ケイは病人なんですよ。あいつは、じきに死ぬかもしれないんですよ」

 伯母はここぞとばかりに力を込めた。

「ええ、そうなのよ。病弱な方なのよ。だからこそのお見合いなのよ」

 伯母が少し声を潜めてこんなことを告げた。

「ここだけの話、桜雨さん家の坊ちゃんは長く生きられないかもしれないんですって。お姉さんは泣いていらっしゃったわ。弟さんは花梨ちゃんに一目惚れしちゃったそうなの。だから、デートしてもらうだけでいいって、おっしゃっているのよ。弟さんはとてもシャイな方だそうよ」

 どうやら、姉のマリアが切々と懇願したらしい。

「弟さんには生き甲斐のようなものが必要なんですって。ねぇ、花梨ちゃん、どうかしら。会うだけでも会ってみてくれないかしら? お願いよ。わたしの会社の取引先御子息なの。結婚する必要はないのよ。会うだけでいいのよ」

 死んでしまうかもしれない。その言葉に医師である父は心を動かされたようだった。さすがに気の毒に思ったのだろう。

「まぁ、そういう事情なら仕方ないな。桜雨さんの坊ちゃんなら身元もしっかりしている。会うだけなら会えばいいんじゃないか」

 その一言で決まり、伯母と共に桜雨家のパーティーに参加することになったのだ。三連休の間に、政界の実力者やセレブな方達がホテルに集うという。

 花梨としては憧れのカリスマモデルのマリアに会ってみたいというミーハーな気持ちもあったし、何よりもケイの病状が気になっていた。

(あの人から話を聞くべきなのかもしれない……)

 その日、花梨は灰色ががったピンク色の可愛らしいワンピースを身に着けていた。

 持参しているグレーのシックなドレスも靴も伯母の会社の製品である。伯母は、結婚式の二次会や、こういうパーティーなどで着用する衣服を手広く扱っているのだ。ここは、桜雨一族が所有する海辺のホテルだ。明日、近くの施設でアパレル関連の見本市と商談会が開かれるという。
 
 ロビーに向うと高価な着物姿の伯母は花梨の背中を楽しげに押し出した。
 
「それじゃ、あたしは仕事がありますから。んふふ。二人でお話して下さいね」

 午後、ホテルのカフェで英国風のお茶を楽しむことになった。日当たりのいい窓際の席で向き合った。何となく、目を合わせるのが照れ臭いような気もする。