「でも、バイトしているってことは、それなりにお金が必要でしょう?」

 三週間前から使い走りとして動き回っているという。まだ高校一年なのに大人っぽく見える。

 裏方としての即戦力となっていた輝は困ったような顔で言う。

「うち、あんまり裕福じゃないですから……。大学に行く学費を自分で稼げたらいいなぁと思っているんですけど」

「だったら、アキラのブランドのイメージモデルとして、高校生の間だけでも働いてみたらどうかしら。アキラも、あなたのことを気に入っているのよ」

 もちろん、アキラは輝のルックスを気に入っている。けれども、ブランドの専属モデルは、もう内定している。それなのにマリアは強引に従兄を説得したのだ。マリア自身も、なぜ、そんなふうにムキになるのかが分からない。何かに突き動かされていたのだ。

 輝が曖昧に微笑んだのを見て、マリアは動き出していた。
 
「あーら、マリア、契約書は交わしていないけれど、もう、あたしの中ではユウジに決めていたのよ。それを、あの素人の坊やちゃんに変えてくれだなんて、どういうこと?」

 輝は、アキラの好みとは少し違う。といっても、アキラは面食いなので輝の事もそれなりに気に入っているので、ここぞとばかりに熱心に頼み込んでいた。

「あたしは輝と一緒に仕事をしてみたいの。ユウジとあたしが並ぶと互いの個性が相殺しちゃうのよ。ユウジって女々しい顔してるじゃない?」
 
 マリアは輝と会う為の口実が欲しかったので、そんなふうに言ったのだ。

「そう言われてみるとそうね。ユウジが相手だと、あんたの方が男っぽく見えるわね。その点、建山輝っていう坊やだとバランスがいいわね」

 しかし、モデルの仕事を奪われたユウジはつむじを曲げてしまった。仕方なく、マリアは、父親の財力と人脈を使ってユウジとユウジの母を納得させた。
 
 モデルの世界にはイジメやジェラシーといったものはつきものだ。
 
 ユウジは、同じスタジオで輝と顔を合わせると、わざと輝の足をひっかけるような幼稚なことをしており、嫉妬心を隠そうとしない。マリアは苦笑するしかない。でも、まさか、自分がユウジと同じような気持ちを抱くようになるなんて思ってもみなかった……。

            ☆

 その日、輝がマリアと一緒に結婚情報誌の撮影に参加することになっていたので、マリアが車を運転して輝を迎えに行った。

 印刷所を営んでいた輝の父は過労死したという。輝が十五歳になった時に母子家庭となったので家計は苦しい。

「うわっ、ポルシェ。まじっすかぁ!」