不倫に溺れる男女の葛藤がよく描かれている。イーリスが愛するテリの魅力はもちろんだが、寝取られる側の夫のつかみどころのないモヤッとしたキャラクターもいい。それに、韓国ドラマさながらの強烈な悪役もいる。
銀の城の脚本は面白かったので父の知り合いの小さな劇団で上演された。そして、白血病を乗り越えた弟は自宅てロシア語の翻訳の仕事をするようになる。三年前に『海賊の島』という脚本を書きあげた。その内容も前作と酷似している。
自分を誘拐した海賊を好きになる。婚約者の王子のもとに嫁ぐ途中で海賊に恋してしまう女。それが、イーリスの生まれ変わり。
生まれ変わっても婚約者を寝取られる間抜けな男。それがマリアの弟だなんて……。なんて哀れなのだろう。あまりにも惨めではないか。
(まったく、何なのよ)
仮に、弟のいう輪廻転生の話が本当ならば、そんな女など最低だ。
しかし、なぜか、弟は少しも恨んでいない。どこまでお人よしなんだろう。
それはさておき、マリアはモデルという仕事に飽きており、本格的に女優として活動したいと願っていた。
『銀の城』と『海賊の島』の脚本を知り合いのプロデューサーに見せたところ高評価だった。
『へーえ、いいね。恋する女の情念を感じるね。極上の不倫ってやつだね』
そして、二年前、『銀の城』が上演される事になり、マリアはイーリスを敵視するアランスの役でデビューした。演技経験はゼロに等しいいが、アランスの役を懸命に演じたつもりである。
(監督からは、愚かなアランスのジレンマを表現していると褒められたわ……)
役にのめりこんだせいかもしれない。どういう訳か、本気でイーリスを殺したくなったのだ。おぞましいほどの嫌悪感が自分を突き動かしていたのである。
(どうして、こんなにも奇妙な生々しさを感じるのだろう……)
アルダン王。王を裏切る王妃イーリス。武官のテリ。ダナース王の従姉のアランス。これが主要キャストだ。新人のマリアはアランスを演じる際に演出家からアドバイスを受けた。
『アランスは権力志向の強い女だから、王妃になりたがっている。だから、余所から来たイーリスを疎ましく感じている。それに、イーリスの美貌にも嫉妬している』
劇の中では、アランスは、イーリスと王との関係に嫉妬していることになっている。少なくとも部下達の目にはそう映っている。
(いいえ、そうじゃないわ。アランスは、あの娘の容姿などどうでもいいのよ、むしろ、自分の方が綺麗だと確信していたわ。アランスが嫉妬していたのはイーリスとテリの関係よ。だって、アランスは若くて凛々しいテリを愛していたんだもの)
アランスが自分に恋していることを知っているのに、テリは分からないフリをする。
『あなたは、なぜ……。そんなふうに切なそうな目でイーリスの姿を見るの』
銀の城の脚本は面白かったので父の知り合いの小さな劇団で上演された。そして、白血病を乗り越えた弟は自宅てロシア語の翻訳の仕事をするようになる。三年前に『海賊の島』という脚本を書きあげた。その内容も前作と酷似している。
自分を誘拐した海賊を好きになる。婚約者の王子のもとに嫁ぐ途中で海賊に恋してしまう女。それが、イーリスの生まれ変わり。
生まれ変わっても婚約者を寝取られる間抜けな男。それがマリアの弟だなんて……。なんて哀れなのだろう。あまりにも惨めではないか。
(まったく、何なのよ)
仮に、弟のいう輪廻転生の話が本当ならば、そんな女など最低だ。
しかし、なぜか、弟は少しも恨んでいない。どこまでお人よしなんだろう。
それはさておき、マリアはモデルという仕事に飽きており、本格的に女優として活動したいと願っていた。
『銀の城』と『海賊の島』の脚本を知り合いのプロデューサーに見せたところ高評価だった。
『へーえ、いいね。恋する女の情念を感じるね。極上の不倫ってやつだね』
そして、二年前、『銀の城』が上演される事になり、マリアはイーリスを敵視するアランスの役でデビューした。演技経験はゼロに等しいいが、アランスの役を懸命に演じたつもりである。
(監督からは、愚かなアランスのジレンマを表現していると褒められたわ……)
役にのめりこんだせいかもしれない。どういう訳か、本気でイーリスを殺したくなったのだ。おぞましいほどの嫌悪感が自分を突き動かしていたのである。
(どうして、こんなにも奇妙な生々しさを感じるのだろう……)
アルダン王。王を裏切る王妃イーリス。武官のテリ。ダナース王の従姉のアランス。これが主要キャストだ。新人のマリアはアランスを演じる際に演出家からアドバイスを受けた。
『アランスは権力志向の強い女だから、王妃になりたがっている。だから、余所から来たイーリスを疎ましく感じている。それに、イーリスの美貌にも嫉妬している』
劇の中では、アランスは、イーリスと王との関係に嫉妬していることになっている。少なくとも部下達の目にはそう映っている。
(いいえ、そうじゃないわ。アランスは、あの娘の容姿などどうでもいいのよ、むしろ、自分の方が綺麗だと確信していたわ。アランスが嫉妬していたのはイーリスとテリの関係よ。だって、アランスは若くて凛々しいテリを愛していたんだもの)
アランスが自分に恋していることを知っているのに、テリは分からないフリをする。
『あなたは、なぜ……。そんなふうに切なそうな目でイーリスの姿を見るの』