花梨とケイのお見合い。
それを持ちかけたのはケイの姉のマリアである。
ケイは二歳年下の腹違いの弟だ。ケイの母親は父の愛人だった。ウクライナから出稼ぎに来ていた彼女は、生後、間もない赤ちゃんを父に託して帰国している。
ある日、マリアの祖母の家に赤ん坊がやってきた。
慧という名を授けたのは父だ。祖母は、ケイの持ち物にカタカナでケイと記するようになる。慧自身も幼い頃、学校のテストなどでは、ケイと名前を記している。慧という漢字が書けるようになってからもそれは変わらない。
祖母は母親のいないケイを不憫に思っている。
一方、マリアも母を中学二年の夏に亡くしている。以後、マリアはケイと共に父方の祖母によって育てられるようになった。祖母は、生意気なマリアよりも、おとなしくて賢いケイことを可愛がっていた。ケイが祖母に愛されるのは当然だ。
だって、弟は誰よりも優しいもの。
近所の人達からはハーフの姉弟だと思われているが、決してそうではない。
マリアは派手な顔立ちをしているが両親は生粋の日本人なのだ。桜雨真理子。それが本名。マリアの芸名は事務所の社長が考えたものである。
ハーフのイメージを押し出して活動してきた。マリアは野心家で気が強くて攻撃的だった。父親とも言い合う事がある。しかし、ケイは何も主張しようとしない。マリアが意地悪をしても哀しそうに微笑む。そういう子供だったのだ。
その弟が、高校を卒業してすぐの頃に白血病になった。抗癌剤の副作用に苦しみながらも闘病生活を続けた。
ケイは吐き気や眩暈や頭痛を繰り返して意識が朦朧としていた、そして、その頃から、病床で妙なことを口走るようになるのだ。
「お願いだよ。イーリスに会わせて欲しい。もう一度会わなくちゃいけない。どうしても会って話がしたい。大切なことを伝えなくちゃいけないんだ! 僕は、とても大切なことを忘れていたんだ。姉さん、僕のイーリスを探して!」
マリアは眉をひそめた。
何のことを言っているのか分からなかったが、弟の妄想は日に日に加速していった。ようやく、退院の許可が出ると、何かにとりつかれたように脚本を書き始めた。
それが、『銀の城』である。弟は、ノートパソコンからプリントアウトしたものをかざしながら興奮したようにマリアに訴えた。
「姉さん、これが僕とイーリスとの前世の話なんだよ! 僕等は何度も何度も同じことを繰り返しているんだよ!」
イーリスという女は王である夫を裏切る。身分の低い男の子を身篭り出産しておきながら夫の子だと言い張る。簡単に言うと、泥沼の不倫関係を描いたものだった。
身分違いの二人が強く惹かれ合うが、最後にはとんでもない悲劇が訪れるのだが……。
それを持ちかけたのはケイの姉のマリアである。
ケイは二歳年下の腹違いの弟だ。ケイの母親は父の愛人だった。ウクライナから出稼ぎに来ていた彼女は、生後、間もない赤ちゃんを父に託して帰国している。
ある日、マリアの祖母の家に赤ん坊がやってきた。
慧という名を授けたのは父だ。祖母は、ケイの持ち物にカタカナでケイと記するようになる。慧自身も幼い頃、学校のテストなどでは、ケイと名前を記している。慧という漢字が書けるようになってからもそれは変わらない。
祖母は母親のいないケイを不憫に思っている。
一方、マリアも母を中学二年の夏に亡くしている。以後、マリアはケイと共に父方の祖母によって育てられるようになった。祖母は、生意気なマリアよりも、おとなしくて賢いケイことを可愛がっていた。ケイが祖母に愛されるのは当然だ。
だって、弟は誰よりも優しいもの。
近所の人達からはハーフの姉弟だと思われているが、決してそうではない。
マリアは派手な顔立ちをしているが両親は生粋の日本人なのだ。桜雨真理子。それが本名。マリアの芸名は事務所の社長が考えたものである。
ハーフのイメージを押し出して活動してきた。マリアは野心家で気が強くて攻撃的だった。父親とも言い合う事がある。しかし、ケイは何も主張しようとしない。マリアが意地悪をしても哀しそうに微笑む。そういう子供だったのだ。
その弟が、高校を卒業してすぐの頃に白血病になった。抗癌剤の副作用に苦しみながらも闘病生活を続けた。
ケイは吐き気や眩暈や頭痛を繰り返して意識が朦朧としていた、そして、その頃から、病床で妙なことを口走るようになるのだ。
「お願いだよ。イーリスに会わせて欲しい。もう一度会わなくちゃいけない。どうしても会って話がしたい。大切なことを伝えなくちゃいけないんだ! 僕は、とても大切なことを忘れていたんだ。姉さん、僕のイーリスを探して!」
マリアは眉をひそめた。
何のことを言っているのか分からなかったが、弟の妄想は日に日に加速していった。ようやく、退院の許可が出ると、何かにとりつかれたように脚本を書き始めた。
それが、『銀の城』である。弟は、ノートパソコンからプリントアウトしたものをかざしながら興奮したようにマリアに訴えた。
「姉さん、これが僕とイーリスとの前世の話なんだよ! 僕等は何度も何度も同じことを繰り返しているんだよ!」
イーリスという女は王である夫を裏切る。身分の低い男の子を身篭り出産しておきながら夫の子だと言い張る。簡単に言うと、泥沼の不倫関係を描いたものだった。
身分違いの二人が強く惹かれ合うが、最後にはとんでもない悲劇が訪れるのだが……。