シワだらけの瞼はダランとしている。しかし、一瞬、カッと目が開いたかと思うと悲しそうに眉を寄せた。

「イーリス。あんたは金色の巻き毛の愛らしい娘だったね。子供の頃は泣き虫で頼りなかった。テリはあんたに一目惚れをしたんだ」

 当たっている。何故、そこまで詳しく分かるのだろう。

(こんなこと、あたしは誰にも話していないわ……)

 花梨は驚きながら聞いていた。

「仲間を裏切り人生を踏み外した。殺される直前、ライラは激しい声で喚いていたよ。あんたとテリを呪ってやると言い続けていた。ファム・ファタルとは、まさに、あんたのことさ。テリとイーリスの世話をしていた老婆の生い立ちを教えてあげよう。その老婆は元娼婦なんだよ」

「あなたは何者なの!」

 そこまで詳細に語れるなんて。この人が単なる占い師だとは思えない。

「おやまぁ、イーリス、覚えていないのかい? 二ヶ月間も一緒に暮らしたんだよ。子守唄を歌ってあげだのに」

 低くしゃがれた声。独特の言い回しに聞き覚えがある。胸を絞るような懐かしさに花梨の胸が震える。

「えっ、もしかして、おばぁちゃまなの!」

 人魚の姫君のお話を語り、毎日、御飯を作ってくれた老婆と同じ眼をしている。そう、あの頃もこんなふうに、イーリスを見つめていた。少し哀しそうな、それでいてからかっているような、そんな独特の顔つきは何も変わっていない。

「まさか、でも……」

「あれから、我々は何度も生まれ変わっている。あんたは忘れているようだね。イーリス、あたしは何度も忠告してやったんだよ」

 ギバの目が眇められていく。花梨の身体はそれに呼応するかのように小刻みに揺れている。ギバは花梨の手を握ったまま警告するように低く呟いている。

「イーリスは何度も生まれ変わっている。自分を連れ去った海賊を愛してしまうエレノア姫も、自分よりもカーストの低い男を愛したルマも、ドイツ人将校の娘なのにユダヤ人に恋をするリーゼロッテも、みんな、あんたの生まれ変わりだ。あんたが死を呼び込む。いつだってそうさ」

「な、なんのことか分かりません!」

 イーリス以外の世界のことは分からない。記憶の欠片すら残っていない。それなのに、心が破裂して分解してしまいそうな恐怖を感じる。

「いいや! あんたの心には罪悪感が心に刻まれているじゃないか。イーリス! 忘れたフリをするのはおやめ! 罪と向き合うんだ!」

「……そんなことを言われても、過去はどうしようもありません」

 相手の手を振り払い立ち上ると厳しく咎められてしまった。

「あんたは、いつもそうだよ。問題から眼を逸らそうとする。お待ちなさい!」