花梨は、よく当たると評判の占い師のもとに向かうと決意したのだ。
正直、この街に来たのは初めてで落ち着かない。古臭い外観のラブホテルが建ち並んでいる。
昼間でも近寄りたくないけれど仕方ない。焼肉点やパチンコ店や東南アジア系の雑貨店などがある。ひどく思い詰めた顔をしながら、地図アプリを頼りに悲壮な顔で路地を進んでいく。
『前世が分かるんだってさ! ギバっていう外人のおばぁさん、マジ、すごいの。あたしの前世の罪を教えてくれたの』
顧客の評判はいい。
雑居ビルの一階はトルコ料理店で二階と三階が占いフロアで、手相占い、星占い、人相占い、水晶占い、タロット占い、前世占いなどのブースに細かく分けられている。
『砂漠の舟』
漠という言葉に郷愁のようなものを感じる。砂漠の舟とはラクダの事だ。看板に、ラクダのシルエットと三日月が描かれている。
扉の向こうにいる前世を教えてくれる人がいると思うと緊張する。平日の午後という事もあり客は少なかった。受け付けで料金を前払いした後、ギバのブースの前で待っていると、じきに呼ばれた。
「次の方……。どうぞ」
黒いカーテンに仕切られたボックスの奥に向かうと厚化粧の派手な顔立ちの老婆が待っていた。
「ようこそ、臆病で美しいお嬢ちゃん。あたしがギバだよ。前世を教えて欲しいのかい? いいだろう。見てあげるとも」
大袈裟な付け睫毛やラメ入りのアイメークといった扮装のせいで性別不明に見える。金色の額飾り、腕輪、首輪。金色の派手な装飾具。この老婆は古代の中東を彷彿させるような民族衣装を身につけている。
よく見ると喉仏のようなものがある。多分、身体は男なのだろう。
ギバは黒いテーブルクロスの上で大きな水晶をかざしている。
息を詰めるようにして身守っていると、おもむろに語り始めた。
「あんたの前世は王妃だったのさ……」
王妃というフレーズにドキッとなる。期待と不安が混ざった複雑な気持ちのままゴクッと喉を鳴らす。
部屋中を包む毒々しい香水の匂いと老婆のキツイ体臭が交じり合って気分が悪くなるが顔に出さないように我慢した。彼女は厳かな声音で呟いている。
「人は運命を避けようとして運命にぶち当たるものなのさ。あんたは愛する男を殺し続ける宿命を背負っている。あんたを愛した男は死ぬ。ああそうさ。イーリスのせいでテリが死ぬことになる」
「……イーリス、どうして、その名を!」
核心を突かれて花梨は凝視する。すぐさま逃げたい。過去と向き合いたくない。花梨は今にも泣き出しそうになっている。
「イーリス、落ち着きない。残念だが運命の糸で、みんな繋かっている。辛そうな目をしているね。あんたの胸に罪の意識が残っているのさ」
正直、この街に来たのは初めてで落ち着かない。古臭い外観のラブホテルが建ち並んでいる。
昼間でも近寄りたくないけれど仕方ない。焼肉点やパチンコ店や東南アジア系の雑貨店などがある。ひどく思い詰めた顔をしながら、地図アプリを頼りに悲壮な顔で路地を進んでいく。
『前世が分かるんだってさ! ギバっていう外人のおばぁさん、マジ、すごいの。あたしの前世の罪を教えてくれたの』
顧客の評判はいい。
雑居ビルの一階はトルコ料理店で二階と三階が占いフロアで、手相占い、星占い、人相占い、水晶占い、タロット占い、前世占いなどのブースに細かく分けられている。
『砂漠の舟』
漠という言葉に郷愁のようなものを感じる。砂漠の舟とはラクダの事だ。看板に、ラクダのシルエットと三日月が描かれている。
扉の向こうにいる前世を教えてくれる人がいると思うと緊張する。平日の午後という事もあり客は少なかった。受け付けで料金を前払いした後、ギバのブースの前で待っていると、じきに呼ばれた。
「次の方……。どうぞ」
黒いカーテンに仕切られたボックスの奥に向かうと厚化粧の派手な顔立ちの老婆が待っていた。
「ようこそ、臆病で美しいお嬢ちゃん。あたしがギバだよ。前世を教えて欲しいのかい? いいだろう。見てあげるとも」
大袈裟な付け睫毛やラメ入りのアイメークといった扮装のせいで性別不明に見える。金色の額飾り、腕輪、首輪。金色の派手な装飾具。この老婆は古代の中東を彷彿させるような民族衣装を身につけている。
よく見ると喉仏のようなものがある。多分、身体は男なのだろう。
ギバは黒いテーブルクロスの上で大きな水晶をかざしている。
息を詰めるようにして身守っていると、おもむろに語り始めた。
「あんたの前世は王妃だったのさ……」
王妃というフレーズにドキッとなる。期待と不安が混ざった複雑な気持ちのままゴクッと喉を鳴らす。
部屋中を包む毒々しい香水の匂いと老婆のキツイ体臭が交じり合って気分が悪くなるが顔に出さないように我慢した。彼女は厳かな声音で呟いている。
「人は運命を避けようとして運命にぶち当たるものなのさ。あんたは愛する男を殺し続ける宿命を背負っている。あんたを愛した男は死ぬ。ああそうさ。イーリスのせいでテリが死ぬことになる」
「……イーリス、どうして、その名を!」
核心を突かれて花梨は凝視する。すぐさま逃げたい。過去と向き合いたくない。花梨は今にも泣き出しそうになっている。
「イーリス、落ち着きない。残念だが運命の糸で、みんな繋かっている。辛そうな目をしているね。あんたの胸に罪の意識が残っているのさ」