輝が刺されたあの日、輝は、占いの結果を示した小さな紙切れを花梨に渡そうとしていた。

 ゲームセンターのタロット占いの最終のカードは死神のカードの逆位置なのだが、あれは輝の死を意味していたのではなかった。

(まさか、あれが再生を予知していたなんて……)

 立ち直り。刷新。よみがえり。死者は、冥界の輪を通り抜けて蘇る。困難を乗り越え生まれ変われるチャンスを意味していた事にようやく気付いたのである。

(……もう、死なせたりしないわ。あたし達は乗り越えたのよ)

 そして、輝が無事に退院する頃、哀しい訃報が届いた。
 
「ケイ。あなたは優しい人だった……」

 夏真っ盛りだ。頭上の梢からせみの声がグワングワンと重なり合うように響いている。
 
 花梨は目に涙を浮かべながらお墓の前で白い花を捧げていく。可憐な白い花。それは、生前、ケイが好きだと言っていたマーガレットである。
 
 六月の末、ケイは病院の一室で眠るようにして静かに逝ってしまった。深夜のことだったのでケイの側には誰もいなかったという。四十九日を終えたので、墓前に訪れた花梨は心の中でケイに語りかけていく。
 
「もう、会えないかもしれないけど……。でも、生まれ変わったなら今度こそ、あなたには幸せになって欲しいと思っているの」

 最近は不思議な夢を見ない。ひとつハッキリしていることがある。
 
(あたしが最も愛した相手はいつもテリだった……)

 今度こそ二人は結ばれる。テリとイーリスは、そう思って、何度も生まれ変わっていたのかもしれない。
 
 そして、王は王で、普通の幸せを得たいと願って生まれ変わっていたのかもしれない。
 
 そして、アランスはテリを手に入れようとして、生まれ変わる度に、もがいていたのかもしれない。
 
 みんな、不毛な気持ちを持ったまま蘇りの連鎖を繰り返してきた。
 
「さようなら……」

 花梨は、彼に別れを告げてからその場を立ち去っていく。今でも不思議な気がする。ケイが死んだ直後に上演された舞台のことが脳裏にこびりつている。
 
 パンフレットには、簡単なあらすじが書かれていた。

『海賊の島』

 それは、世間知らずな姫君と義賊のような海賊とのロマンス。文字で書くとただそれだけのこと。

 貴族の娘であるエレノアが海を隔てた隣国に嫁ぐことになるが途中で海賊に襲われてしまう。
 
 脚本家は、舞台の国や人物の名前などは色々と改変していたし、ストーリーも脚色はしているが、それは本当にあったことなのだ。強大な軍隊を引き連れてエレノアの婚約者の王子が海賊船を包囲していく。抵抗しても無駄なことは目に見えている。捕まれば海賊たちは拷問されてしまう。生きたまま車裂きにされるのだ。