グォーという音に包まれていた。ここは砂漠だ。風が吹いている。
 
 小さな男の子と女の子が粗末な天幕の中で話をしている。頭に布を巻いている遊牧民の服装をしている男の子がテリ。西洋の衣服に身を包んでいる女の子がイーリス。
 
 テリは十二歳。七歳のイーリスはシクシクと泣き、家に帰りたいと言い続けている。乾いた大地。周囲には小石を敷き詰めたような荒れ地が広がっている。それでも、ここには井戸がある。近くの岩山の隙間に湧いた僅かな水を女と老婆が酌んで煮炊きをしている。テリとイーリスがいる天幕の背後に男達がいて輪になって座っている。
 
 夕食後、天幕の中でテリが言った。
 
「あんたの宝石を渡してくれよ」

「嫌よ。これは、あたしのものよ」
 
「そうじゃないぜ。いいことを教えてやるよ」

 イーリのペンダントの石は青くてヒヨコ豆よりも大きい。この宝石はサファイヤだ。
 
「よく聞きな。本当にあった話なんだぜ」

 そして、テリが語り出している。

「昔、塩分の濃い内海で生け捕りにした人魚を家臣が王宮に献上したんだよ。砂漠の国の皇女サーラー姫は人魚の肉を食べたら永遠の若さを得られると占い師から聞いて目を輝かせた。人魚の尾っぽの肉を食おうとして刃物でえぐりとったんだよ。人魚の傷口が腐敗して急速に衰弱してしまい大きな瓶の水が茶色く濁ったんだ」

 サーラーは美しい姫だった。永遠に綺麗なままでいたいと願っていた。自分以外の者に不老不死の力を与えるつもりはない。だから、人魚を狭い浴槽に閉じ込めて飼育していたのだ。

 瀕死の人魚を心配して覗き込む男がいた。それは宮廷奴隷の道化師の若者だった。二人は囚われの身である互いを嘆いた。

 身体が弱り、死を意識した人魚は哀しそうに声を震わせながら懇願した。
 
『お願いです。青い石には私達の魂が入っています。故郷を恋しがっています。いつか、この石を海に返して下さい』

 天罰が下ったのか、人魚が死んだ直後、サーラー姫は高熱にうなされて醜い鱗だらけの姿になってしまう。以後、半漁人と噂されて人々から怖れられて引きこもるようになる。やがて、サーラー姫の国は侵略されて国民全員が奴隷になる。その際、道化師は人魚の石をサーラー姫から奪還したのだ。

「石を盗み出した道化師は人魚との約束を守ろうとして海を目指したんだぜ。だがな、砂嵐に遭ってしまい行き倒れになるのさ。それで、この石は巡り巡ってあんたのものになった訳だ」
 
 真剣な顔つきのまま、テリが一気に叩き込むように告げている。  
    
「分かるかい? その綺麗な宝石は元々は人魚のものだ。だからも海に返さなくちゃならないのさ。おいらに渡してくれたら、これを海に投げ込むと約束するぜ」

「分かったわ」

 イーリスの所持品を無理に奪う事は簡単なのだが、テリは物語を作って嘘をついたのだ。