花梨を憎むマリアを圧倒するくらいに花梨の絶望は深かった。痛みに溶けて透明になり風の中へと消えてしまいそうに見える。
「今度こそ、あたしは、輝くんに幸せになってもらいたいんです。死なせたくありません」
まっすぐに見詰め返されてマリアは少し怯む。花梨は金網に手をかけている。
「あたしが死ねば、すべてが変わります」
そう言いながら右足をかけていると、後方で物音がした。その時、屋上に誰かがやって来たのである。
「お待ちなさい!」
しわがれた声が辺りに響いた。フェンスに向かって近寄りながら、その人は必死になって杖を高く上げている。
よろけながらも懸命に叫んでいる。
「イーリス! よくお聞き! テリより先に死んでも問題は解決しないんだよ!」
そう告げたのはギバだった。なぜ、ここにいるのだろう。
ギバは入院患者に支給されているパジャマを身につけている。
「やはり、あんたらは運命に導かれたようだね。ここにはダナース王も入院している。輝がここに運び込まれた。あたしも入院している。ここにみんなが集まっている。これは偶然なんかじゃない」
「だ、誰なのよ! このばぁさん!」
訝しげに尋ねるマリアに対して、スッピンのギバがグワッと目を開いて一喝していた。
「いいから、おまえさんも黙って聞きなさい! アランス、これから大事なことを言うから聞きなさい」
深いシワが歳月の深みを醸し出している。迫力のある表情でマリアを黙らせている。
民族衣装を着ていた時は気付かなかったが、その体は痩せ細っている。一人で立てるような状況ではない。しかし、ギバは、ありったけの力を振り絞っている。
「わたしも当事者だよ! あんたらは不思議だと思わないのかい? なぜ、テリは鮮明に思い出すことがないんだろうね……」
マリアも不思議に思ったのか言葉を詰まらせている。すると、ギバはマリアと花梨の二人を交互に見つめながら言ったのだ。
「あんた達は、みんな、うしろめたいものを抱えている。テリを死なせた原因が自分達にあると思っている。王は、本来、結ばれるはずの恋人達を引き裂いた自分を恥じている」
キバは枯れ枝のようにやせ細った体を引きずるようにして、一歩、また一歩花梨に近寄っていく。そして、肩をつかんだ。しかし、その瞬間にキバがよろめいたので花梨は細い身体を抱きとめた。
「……ギバさん、大丈夫ですか!」
気遣う花梨に、ギバは最後の力を振り絞るようにして囁いたのだ。
「いいかい? もう一度聞くよ。テリは、なぜ、何も思い出さないのだろうね……。テリだけは、自分の運命を知らないのは、どうしてなんだろうね?」
花梨とマリアは黙り込む。二人とも何も答えられなかった。花梨は、懸命に考えていた。
(彼だけが何一つ思い出していないわ。確かに妙だわ……)
「今度こそ、あたしは、輝くんに幸せになってもらいたいんです。死なせたくありません」
まっすぐに見詰め返されてマリアは少し怯む。花梨は金網に手をかけている。
「あたしが死ねば、すべてが変わります」
そう言いながら右足をかけていると、後方で物音がした。その時、屋上に誰かがやって来たのである。
「お待ちなさい!」
しわがれた声が辺りに響いた。フェンスに向かって近寄りながら、その人は必死になって杖を高く上げている。
よろけながらも懸命に叫んでいる。
「イーリス! よくお聞き! テリより先に死んでも問題は解決しないんだよ!」
そう告げたのはギバだった。なぜ、ここにいるのだろう。
ギバは入院患者に支給されているパジャマを身につけている。
「やはり、あんたらは運命に導かれたようだね。ここにはダナース王も入院している。輝がここに運び込まれた。あたしも入院している。ここにみんなが集まっている。これは偶然なんかじゃない」
「だ、誰なのよ! このばぁさん!」
訝しげに尋ねるマリアに対して、スッピンのギバがグワッと目を開いて一喝していた。
「いいから、おまえさんも黙って聞きなさい! アランス、これから大事なことを言うから聞きなさい」
深いシワが歳月の深みを醸し出している。迫力のある表情でマリアを黙らせている。
民族衣装を着ていた時は気付かなかったが、その体は痩せ細っている。一人で立てるような状況ではない。しかし、ギバは、ありったけの力を振り絞っている。
「わたしも当事者だよ! あんたらは不思議だと思わないのかい? なぜ、テリは鮮明に思い出すことがないんだろうね……」
マリアも不思議に思ったのか言葉を詰まらせている。すると、ギバはマリアと花梨の二人を交互に見つめながら言ったのだ。
「あんた達は、みんな、うしろめたいものを抱えている。テリを死なせた原因が自分達にあると思っている。王は、本来、結ばれるはずの恋人達を引き裂いた自分を恥じている」
キバは枯れ枝のようにやせ細った体を引きずるようにして、一歩、また一歩花梨に近寄っていく。そして、肩をつかんだ。しかし、その瞬間にキバがよろめいたので花梨は細い身体を抱きとめた。
「……ギバさん、大丈夫ですか!」
気遣う花梨に、ギバは最後の力を振り絞るようにして囁いたのだ。
「いいかい? もう一度聞くよ。テリは、なぜ、何も思い出さないのだろうね……。テリだけは、自分の運命を知らないのは、どうしてなんだろうね?」
花梨とマリアは黙り込む。二人とも何も答えられなかった。花梨は、懸命に考えていた。
(彼だけが何一つ思い出していないわ。確かに妙だわ……)