若い男は、狂ったような顔つきで同じ言葉を繰り返している。そいつの目の焦点がおかしい。呂律もおかしい。何もかも禍々しい。呪文のように言い続けている。
「……僕は悪くない。僕は何も悪くない。おまえがこうさせた」
僕は悪くない。悪くない、悪くない、悪くない。悪いのは、おまえだ!
狂気を孕んだ目で遠くの何かを見つめながら、虚ろな笑いをこぼしている。
この男は誰に向けて何を呪っているのだろう。
「神が僕に命令した。お前は、今、ここで死ぬべきなんだ! 聖なる裁きを受けるがいい!」
「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
輝の周囲にいる人たちが、異変を察して一斉に悲鳴をあげた。鮮血に染まった輝の白いシャツに皆の視線が集中している。腹から血がポタポタと滴り落ちており、地面に赤い色が重なり落ちている。花梨は呆然としたまま動けなくなっていた。このままでは輝が死んでしまう……。
急速に血を流したせいなのだ。
総ての力を無くして壊れた人形のように膝から崩れ落ちている。花梨は顔を覆ったまま悲壮な声で叫んでいた。
「助けて! おねがい! 誰か! 早く来てーーーー!」
駅の構内は騒然となっている。周りの大人が刺した男を強引に押さえつけている。
(あたしのせいで輝が刺された! あたしの最愛の人が死んでしまう……!)
記憶の中で警告音が鳴り響いている。何度も何度も同じ事の繰り返し。どうして? どうしてっ! どうして!
花梨は刺さったナイフの柄を握り締める。抜こうとしていたのだが、その時、輝が小さな呻き声をあげた。顔と顔が近くなる。緊張感と不安が張り詰めている。彼は、呻きながら花梨を制している。
「ダメだ。抜くな。そのままにしておけ……」
血の気が引いている。膝を崩しながらも輝がゆっくりと言う。
「お願いだ。そ、そのままにしてくれ。止血する方法なんか知らないだろ? プロが来るまで何も触るな。まだ死にたくない……」
「……でも」
刺したままでいいのだろうか?
呼吸するのも辛そうに目を閉じている。輝の唇は青褪めている。膝をついたまま、寒そうに震えていた。そこに駅員と警官がやってくる。花梨は、自分の指にこびりついた血の匂いと奇妙な懐かしさを覚えて怖くなってしまう。
「死なないで…」
取り乱して泣いている花梨を落ち着かせようとして、見知らぬ中年の女性が抱きとめてくれたようだ。
自分は看護師だと言い、あなたは怪我はありませんかと尋ねているようなのだが、今の花梨には他の人の声など耳に入らない。地べたにしゃがみ込んだまま泣き叫ぶ。
「おねがい! 輝を助けて!」
助けて。あの人を死なせないで!
やっと到着した救急車のサイレンの音を聞きながら、遠い昔のことを思い返していた。
「……僕は悪くない。僕は何も悪くない。おまえがこうさせた」
僕は悪くない。悪くない、悪くない、悪くない。悪いのは、おまえだ!
狂気を孕んだ目で遠くの何かを見つめながら、虚ろな笑いをこぼしている。
この男は誰に向けて何を呪っているのだろう。
「神が僕に命令した。お前は、今、ここで死ぬべきなんだ! 聖なる裁きを受けるがいい!」
「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
輝の周囲にいる人たちが、異変を察して一斉に悲鳴をあげた。鮮血に染まった輝の白いシャツに皆の視線が集中している。腹から血がポタポタと滴り落ちており、地面に赤い色が重なり落ちている。花梨は呆然としたまま動けなくなっていた。このままでは輝が死んでしまう……。
急速に血を流したせいなのだ。
総ての力を無くして壊れた人形のように膝から崩れ落ちている。花梨は顔を覆ったまま悲壮な声で叫んでいた。
「助けて! おねがい! 誰か! 早く来てーーーー!」
駅の構内は騒然となっている。周りの大人が刺した男を強引に押さえつけている。
(あたしのせいで輝が刺された! あたしの最愛の人が死んでしまう……!)
記憶の中で警告音が鳴り響いている。何度も何度も同じ事の繰り返し。どうして? どうしてっ! どうして!
花梨は刺さったナイフの柄を握り締める。抜こうとしていたのだが、その時、輝が小さな呻き声をあげた。顔と顔が近くなる。緊張感と不安が張り詰めている。彼は、呻きながら花梨を制している。
「ダメだ。抜くな。そのままにしておけ……」
血の気が引いている。膝を崩しながらも輝がゆっくりと言う。
「お願いだ。そ、そのままにしてくれ。止血する方法なんか知らないだろ? プロが来るまで何も触るな。まだ死にたくない……」
「……でも」
刺したままでいいのだろうか?
呼吸するのも辛そうに目を閉じている。輝の唇は青褪めている。膝をついたまま、寒そうに震えていた。そこに駅員と警官がやってくる。花梨は、自分の指にこびりついた血の匂いと奇妙な懐かしさを覚えて怖くなってしまう。
「死なないで…」
取り乱して泣いている花梨を落ち着かせようとして、見知らぬ中年の女性が抱きとめてくれたようだ。
自分は看護師だと言い、あなたは怪我はありませんかと尋ねているようなのだが、今の花梨には他の人の声など耳に入らない。地べたにしゃがみ込んだまま泣き叫ぶ。
「おねがい! 輝を助けて!」
助けて。あの人を死なせないで!
やっと到着した救急車のサイレンの音を聞きながら、遠い昔のことを思い返していた。