二人は他の人達の目にはどういうふうに見えるのだろう? 二人は前世で恋人同士だった。
 
 けれども、この先には哀しい結末が待っている。
 
(あたし達は、一緒にいてはいけない。離れなければならないの……)
 
 お願い。あたしを困らせないでと花梨は心の中で祈り続けていくうちに目に涙が滲んできた。すると、輝がハッとしたように瞳を揺らした。
 
「ごめん。悪かった。俺は……」

 輝が唇を強く噛み締めている。目を伏せたまま苦しそうにている。花梨もいたたまれないように、ずっと目線を下げたまま沈黙している。

「とにかく聞いてくれないか」

 輝は、大きく深呼吸をすると花梨の手を握りしめた。

「俺は、花梨のことを守りたい。初めて見た時から好きだった。こんな気持ちになったこの初めてなんだ」

 甘く響く彼の声。輝の優しさと情熱が花梨の胸を狂おしく締め付ける。花梨は心の中で反論していく。いいえ、初めてじゃないのよ。あなたは、何度も何度も真剣にあたしを愛した。

 だから、無残に死んでしまうのよ。

「お願い。二度と話しかけないで」

「本当にそれでいいのか?」

 花梨は顔を上げていた。彼は、真剣に花梨だけをまっすぐに見ている。花梨は、彼の瞳を前にして自分の心を偽ることができない。だって、あたしは誰よりも、あなたを……。
 
 愛していると叫びたい。素直な気持ちをぶちまけてしまいたい。訴えたい。輝も、花梨の熱量に呼応するかのように何か伝えようとしている。
 
「俺は、ずっと前から……」

 彼が、何か言おうとした時だった。唐突に花梨の視界に入リ込む人間がいた。人ごみの中でキラッと光るものがあった。花梨が怯えたように顔を引き攣らせていると、その反応に対して輝もつられて振り向いたのだ。
 
 禍々しい狂気が悪夢のように目の前に迫っていた。
 
 危険を察知した輝の皮膚がみるみるうちにザラリと粟立っていく。この直後に、いきなり、世界が色を変えたのである。
 
 それは、誰も予想していないタイミングで起きた悲劇だった。
 
「えっ……?」

 輝の脇腹にナイフの刃が刺さっている。グサリッ。二人を割り込むように突進した若い男が体重をかぶせるように、そのまま強く深く念入りに押し込んでいたのだ。そいつの眼鏡は曇っていた。額はべっとりと汗ばんでいる。
 
 花梨は言葉を失っていた。凶器を握り締めたまま若者は卑屈な目で笑っている。痩せた男の手元は血にまみれている。輝の腹部はみるみるうちに赤く染まっている。
 
 輝を刺したことで満足したのか、フフッと勝ち誇ったようにして天を見上げる顔が不気味だった。
 
「ぐふふ。建山輝。いいか、何もかもおまえのせいなんだからな。何もかもおまえが悪いんだぞ。おまえが悪いんだからなーーーーーー!」