次の瞬間、まるでみんなで子守唄を歌うかのような柔らかな声でその一行目が読み始められた。

どうすれば良いのかわからず、とりあえず「禊祓詞」のページに視線を落とす。


慌てて追いかけるように、一行目を辿った。


「高天原《たかまのはら》に、神留《かむづ》まり坐《ま》す……神漏岐《かむろぎ》神漏美命《かむろみのみこと》、も、以もちて────」


よかった。

ちょっと噛みそうになるけど、これならなんとか読めそう。


「祖神伊邪那岐命《すめみおやかむいざなぎのみこと》筑紫《つくし》の日向《ひむか》の橘の小門《おど》の阿波岐原《あはぎはら》に 禊祓《みそぎはら》い給う時に生《あ》れませる」


この言葉にはどういう意味があるんだろう。

でも、なんだか言葉に出して読み上げるとなんだか心地よい気持ちになる。


胸の中でもやもやしていた物がすっと晴れていくような。



「祓戸《はらいど》の大神達《おおかみたち》 諸々の禍事《まがこと》罪穢《つみけがれ》を 祓《はら》い給《たま》い清め給えと白《もう》す事ことの由《よし》を」



そこまで読み上げて、自分の異変に気が付いた。

先程感じた心地よさとは一変して、頭のてっぺんからさあっと血の気が引いていくような感覚に襲われる。

どくん、どくん、と心臓が波打つ。


ああ、だめだ。目が回る。



「天津神《あまつかみ》 国津神《くにつかみ》 八百万《やおよろず》の……っ、神等共《かみたちとも》に、聞《き》こし食《め》せと恐《かしこ》み恐《かしこ》み、白《もう》す────……」


最後の一言が言えたのかも分からないうちに、意識がふっと遠のいた。