「────え?」
丁度十段くらい登った時だった。
目に映る景色がものすごい速さで後ろに流れた。電車に乗っているような感覚だ。
髪がふわりと風に煽られ、瞬きもしないうちに目の前の景色が一変した。
鳥居から本殿に繋がる石畳の引かれた参道は、来訪者を本殿へ誘う様に石灯籠が等間隔に立ち並ぶ。
その先に聳え立つのは、見上げることも出来ない程の大きな社だった。
檜皮葺の屋根は重厚感があり、それを支える優美な曲線の破風には桃の花の模様があしらわれた金の飾りが施されている。
屋根を支える柱は長い年月を物語る黒に近い焦げ茶色で、太い柱と細い柱が複雑に精密に組まれていた。
大きな社を中心に赤い太鼓橋が方々にかけられ、たくさんの建物と繋がっている。
なにより目を引くのは、軒下にかけられた大人が百人居ても支えることは出来ないような大きさの注連縄だ。
まるで何かを守るように、世界を区切るようにそこに存在し圧倒的な存在感を放つ。
張り詰めるような気圧されるような、そんな空気感すら感じた。