「はい、巫寿」
車の降り口で、先に降りた嘉正くんが振り返って手を差し出す。
意図を読み取れず首を傾げると「捕まって」といって私の手を取った。
「あ、ありがとう」
「いいえ。足元気をつけて」
スマートに車から降りるのを手伝ってくれた嘉正くんにどきどきしながら礼を言う。
手を頼りながらぴょんと飛び降りる。
その瞬間、目の前に鮮やかな桃色が広がった。
深く甘い香しい香りには覚えがある。かむくらの社の社頭に咲いていた桃の花だ。
見渡す限り桃の花が続き、その真ん中には真っ赤な鳥居が立つ。
「あー、帰ってきたね〜!」
伸びをしながらそう言った慶賀くん。
車の中で、ここにいるほとんどの生徒が初等部から進学した人達だと聞いた。
初等部からずっと全寮制だから、「学校に行く」という私の感覚より「帰ってくる」という方がしっくり来るんだろう。