「バカ慶賀。ちょっとは落ち着け」
声の低さからその子も男の子なのだと分かった。
スラリと長い手足に、濡羽色の黒髪。
少し浮かせた迎門の面から見えた瞳は優しげで、ずっと通った鼻筋の整った顔立ちの男の子だった。
「痛ってぇー! 何すんだよー!」
反撃しようと両腕をブンブンと振り回す慶賀くんの頭を片腕で抑えたその子は、「はじめまして」と私に向き直った。
「俺、宜嘉正《うべかしょう》。よろしくね。慶賀がデリカシーないこと言ってごめん」
「あ、えっと椎名巫寿です。その、大丈夫だよ。両親のことは、慣れてるから」
私がそう言えば、面で顔は見えないけれど困ったように笑った気がした。
「巫寿、一番後ろの屋形で制服に制服が置いてあるんだ。一緒に行こう」
「そうなんだ、ありがとう……! えっと、宜くん」
「嘉正だよ」
「あ、えっと、嘉正くん……?」
言い直せば、そうそう!と嘉正くんが笑った気がした。
「巫寿は最近この世界のことを知ったんだよね?」
「どうして分かるの?」
「編入生はみんなそうだから。分からないことはなんでも聞いて」
快くそう申し出てくれた嘉正くんに、どこか張り詰めていた緊張がほっととけた。
頼れる人に出会えた気がして、肩の力が少し抜ける。