気を付けてな。
そう送り出されて車へ歩き出す。
そして一番大切なことを忘れていて、慌てて禄輪さんに駆け寄った。
「……あのっ! いっぱい、助けてくれて、ありがとうございますっ」
すると禄輪さんは驚いたように目を瞬かせ、直ぐに弓なりにして微笑んだ。
「一恍や泉寿が亡くなって大変な時に、直ぐに駆け付けられずすまなかった。あいつらのことは家族のように思っていたから、巫寿も遠慮せずに頼りなさい」
力強く抱き締められた。
もう何年ぶりだろうかと言うくらい、久しぶりの感覚だ。
禄輪さんはお社の木の床の匂いがして、そういえばお兄ちゃんも、うんと記憶の底の両親もこんな匂いだったような気がする。
とても優しくて、温かくて、涙が出そうなほど心地よい匂いだ。
「いってらっしゃい。道中気を付けてな」
「はい。いってきます」
何度も振り返りながら車に乗り込む。
直ぐに簾がおりて車は動きだした。