「歩みを止めるなよ」
そう言われて、もつれそうになる足を必死に動かす。
禄輪さんに捕まっていないと、自分の体が真っ直ぐになっているのかさえ分からない。
5秒くらいして、さあっと視界が晴れた。
その瞬間、森の奥の深い土の匂いや木々のざわめき、虫の鳴き声がつぎつぎと飛び込んでくる。
眩しさに目を瞑ると、禄輪さんは私の肩を叩いた。
「巫寿、見てご覧」
そういわれて、ゆっくりと顔を上げ振り返った。
「うわあ……っ」
森の奥、ひっそりと佇む古びた社の社頭に、軛に繋がれた大きな馬が5匹のんびりと草を食べていた。
汚れひとつない胴体に、真っ白な毛並みが動く度にサラリと揺れる。
その後ろには、歴史の教科書で見たことがある御所車のような車輪の着いた縦長い屋形が繋がっている。
黒光りする車輪、窓の部分には桃や紫陽花、百合の花の刺繍が施された鮮やかな簾がかけられ、細やかな部分の彫刻が美しい。
列車の車両の如く5両編成で、簾が挙げられた乗り口に何人か人の姿があった。