「巫寿、後ろを向いて」
隣を歩いていた禄輪さんにそう言われてびくりと肩が跳ねた。
禄輪さんの着物の袖に皺が寄るほどガチガチに握りしめていた私の手をやんわりと解く。
「私がいる。そう固くならなくても良い」
禄輪さんは笑いながらそう言って、私が身につけていたお面の紐を固く結び直す。
同じお面をつけた禄輪さんも、自分の紐を締め直して「よし」と呟いた。
”迎門の面”と呼ばれるこの面は白い面にミミズみたいな不思議な文字で何か書かれたもので、現世と幽世を結ぶ狭間の場所”鬼脈”を通る際の通行手形だ。
鬼脈は全国各地にある社の鬼門とよばれる鳥居から繋がっており、神職が開閉の管理を行なっているのだとか。
鬼脈にはこんな鳥居が沢山あって、もんが開いているうちは迎門の面さえつけていれば、自由に行き来できるらしい。
幽世と現世を繋ぐ唯一の場所だから同じように迎門の面をつけた妖がたくさんいる。
明らかに人ではない形をした異形のものたち。
異様な光景に、禄輪さんの背中に隠れるようにして歩いていた。