十分か一時間か、どれくらいそうしていたのか分からない。

ただとめどなく流れ続ける涙をそのままに、彼が佇んでいたその場所を見つめていた。



「────こと! ……巫寿!」



遠くで私の名前を呼ぶ禄輪さんの声にはっと我に返った。

両手の甲で頬を拭い辺りを見回す。


禄輪さんが走ってくるのが見えた。


「心配したぞ! 一時間近く探したのに、どこにも見当たらなくて肝が冷えた……!」


両肩を力強く掴まれる。


「ごめ、」

「どうした?」


まつ毛に残る雫に気が付いた禄輪さんが、より一層心配した様子で私の顔を覗き込む。



「……恣冀が、私、知らないのに、ここにいて。消えちゃって」

「恣冀? 人の名前か?」

「いいえ……恣冀は、妖。穢れを嫌う、清廉潔白な妖」



不思議な感覚だった。知らないはずなのに、私の魂が知っていると言う。

私がそういえば、禄輪さんは目を見開いた。



「巫寿はその妖の名前を呼んだのか?」


こくりと頷けば禄輪さんは険しい顔で私の両肩に手を置いた。