気がつけば、鎮守の森の奥へと進んでいた。
確かにこの辺りで、白い人影が見えたような気がしたのに……。
当たりを見回しながら、梅の枝の下をくぐりぬける。
視界の隅に白い布が揺れた。
その瞬間、胸の奥深いところにある細い線が、弾かれたように震えた気がした。
わけも分からず涙が零れそうだった。
何がたんだかわからない。けれど、私は知っている気がする。
「……っ」
慌ててそれを追いかけた。
追いかければ、それは人の形であることが分かる。
白い背中、今にも消え入りそうなほど儚い。穢れを知らない白髪、その清廉さを示す純白の衣。
まるで何かを求めるように、誰かを探すように森の奥を彷徨う。
「まっ、て……! 待って!」
この感情は何?
忘れられない人、忘れてはいけない人。
大切な人、唯一無二の人。
失いたくなかった。そばに居たかった。
ずっと捜し求めていた。
「恣冀……!」
彼ははたと歩みをとめた。
白髪がさらりと揺れて、薄いまぶたがゆっくりと開く。
木漏れ日を閉じ込めたような美しい琥珀色の瞳。
その瞳には、怒りと悲しみで満ちていた。