「────巫寿さま、お目覚めでいらっしゃいますか」


遠くでそんな声が聞こえる。


起きているのか眠っているのかも分からない。ただぼんやりと宙を眺めていた。

もう何も考えたくなかった。どうにでもなればいい、そう思った。



「禄輪が、なにか召上がらないとお身体に触ると。失礼します」


すーっと襖が開いて、深い森の匂いが部屋の中へ入り込む。

かむくらの社を覆い隠す鎮守の森の匂いだ。



体を起こして布団の上に座る。

頭がぼんやりして重かった。



「丸二日も召し上がっておりません。今晩かむくらの社の結界を抜けますので、何か食べなければお身体が持たないと、禄輪が」



そう言って膝の上に乗せられたお盆から、ふわりと白い湯気がたった。

真っ赤な梅干しだけが乗った質素なお粥。


優しい匂いがした。



「召し上がって下さい」

「……お腹、空いてないです」

「召し上がるのを見届けるまで、この部屋から戻るなと仰せつかりました」


表情を変えず、けれど頑なに緩らないトウダさん。

強い視線に負けて、木のスプーンを手にした。