禄輪さんは咄嗟に私の肩を抱きしめて背中に手を添えてくれた。
「残穢になってもなおあいつは強い。先日の魑魅なんか比にならない。今も、奴は授力をもつ者を狙って血肉を食い完全に復活しようとしている。だから巫寿も、その特別な力は決して親しい人以外には口外してはいけない」
禄輪さんは私の肩を抱く力を強めた。
「先日の魑魅なんか比にならない。十二年前の空亡戦で多くの神職が命を落とし、今もなおあいつが残した残穢と戦っている者がいる」
十二年前。
そのワードに大きく心臓が波打つ。
でも、まさか。
だってお兄ちゃんは、両親は「旅行に向かう途中の不慮の事故」って。
私のふくらはぎに残っているのも、一緒に車に乗っていて事故にあった跡だって。
「お父さんとお母さんは、事故だったって」
禄輪さんが顔をしかめる。
その瞬間、世界から全ての音が消えたような気がした。