「困惑しているだろうがちゃんと聞いて欲しい。授力は特別な力で、神職にしか宿らない。けれど、力を持たないものに譲渡することはできる」

「どう、やって……?」

「血肉を食らう」


はっと息が詰まった。

目を見開いて禄輪さんを見つめる。


「もちろん、神職同士でそのようなことは決してしないし、それはこの界隈では犯してはならない禁忌だ。けれど、よからぬ事を企む妖たちは、授力を狙っている」


じゃあつまり、妖が私の血肉を食らおうと、私を狙っているということ……?


「その中でも一番タチの悪い妖が……空亡《くうぼう》という妖だ。授力を持つ神職を無差別に食い殺した」


背筋に冷たいものがぞわりと駆け上がり、喉の奥がぎゅうっと締まる。



「神職総出で奴を倒そうとした。けれど、あと一歩のところであいつは自分自信を八つ裂きにして数え切れないほどの"残穢"を作り出しその魂を分けることで逃げたんだ」


残穢、妖が残していく悪いものを総称してそう呼ぶと禄輪さんは言った。

自分を八つ裂きにして。

ということは切り刻んだ肉片が、空亡の残穢だったのだろう。


胃の底から込み上げてくる感覚に口元を抑えて嘔吐く。