「泉寿も龍笛の音色が好きだった。学生時代、"龍笛に合わせて神楽舞を舞う姿は『因幡の白兎』の八上比売《やがみひめ》のようだ"とよく一恍に惚気られたもんさ」


禄輪さんは懐かしむかのように目を細めた。

『因幡の白兎』というと神話のひとつだ。


ということは、ヤガミヒメは女神さまなのだろう。お父さんがそういうくらいならきっと美しい女神さまに違いない。


お兄ちゃんから、お父さんはお母さんにほの字で、夫婦仲がとても良かったとよく聞かされていた。

きっとその頃からベタ惚れだったんだろうなと思わず頬が緩む。

私の様子で何か察したのか、禄輪さんは両親の話をしてくれた。



「泉寿とは子供の頃からの幼馴染で、初等部の頃に出会ったんだ」

「幼馴染……」

「この界隈は狭いからな、同業者はほぼ知り合いみたいなもんさ。それで、一恍とは寮が同部屋になって、つるむようになった悪友だ」



私が知ることの無い、若かりし頃のお父さんとお母さん

写真で見た姿よりうんと若くて、教室や廊下でおしゃべりしているふたりの様子が何となく目に浮かぶ。