「どうした? 気が休まらないか」
こくりと頷けば禄輪さんは「そうだよな」と小さく笑って私の頭を軽く叩く。
「あの、笛の音色が聞こえて」
「ん、ああこれか。龍笛って名前の横笛だ。吹いてたのは雅楽「越天楽」」
懐から笛を出した禄輪さん。
「吹いてみるか?」
「……多分、私なんかに出来ないと思います」
「こら、呪の要素が強いぞ」
おどけた口調でそう言った禄輪さんに、あ、と口を噤んだ。
怒ってないから、と肩を竦めたがするすると視線は下を向く。
禄輪さんは困った顔で息を吐くと、再び笛を構えた。
トランペットやホルンとは違う、どこか奥ゆかしい不思議な音色が風に乗って流れる。
古い桜の木が風に吹かれて、桜吹雪が舞い散るような美しい旋律。