これからは自分でなんとかしなければならない。

それは重々承知なのに、どうしても受け入れることが出来なかった。


あんな恐ろしい化け物に、自分一人で立ち向かえるわけが無い。

確かに、妖狐や家鳴みたいに優しい妖もいるかもしれない。
けれど、本当にそう?


優しい顔をして近付いてきて、あんなふうに突然私の首を絞めてきたら?


ナイフを突きつけるような殺意を向けられたら?



怖い。怖くてたまらない。

そんなの、私一人じゃどうにも出来ない。


教えて貰った祝詞だって、「逃げる時間」を稼げるくらいの力しかない。

練習をしていない私には、そんな時間すら稼げないかもしれない。



服の中に隠していた、トウダさんに渡された巾着を取り出す。

晩御飯を食べたあとに貰ったものだ。



小花柄の小さな巾着は、僅かに桃の匂いがする。
桃のお香を焚いて布に染み込ませたと言っていた。

桃には少しだけ邪気祓いの要素があるらしい。



部屋の電灯に透かして眺める。

なんだか息苦しい気がして部屋を出た。