「こと、ほぎ……?」

「ああ。言葉を祝うと書いて言祝ぎだ。言霊の力は"言祝ぎ"と"(しゅ)"の二つの要素が組み合わさって出来ている。プラスとマイナスみたいなものだ」


プラスとマイナス、言祝ぎと呪。

口に出して繰り返してみれば、禄輪さんは大きく頷く。



「怖いとか嫌だとか、死ねや消えろ。それは呪の要素が強い言葉だ。反対に嬉しい、楽しい、祝福、清浄……これらは言祝ぎの要素が強い。神職は言霊を使う際、色んな工夫をしてこの要素を強めたり弱めたりしている」


その違いは聞き返さなくても何となくわかった。

悲しい言葉やマイナスな言葉は呪が強く、嬉しくて清らかな言葉は言祝ぎが強い。



「神様との結び付きを強める祝詞を読み上げて、そこへ言霊の力を宿らせる────これが神職が妖を統治するために行っている事だ。その中でも一番短いのが、「略拝詞」」


禄輪さんは傍にあったメモを寄せると、ペンのキャップを外してさらさらと何かを書き込む。

そしてそれを私の前にすっと滑らした。