昨夜のニュースで大寒波が直撃すると言っていたけれどその予報は大当たりで、明け方からしんしんと細かい雪が降っていた。
アパートの外階段にもうっすら積もっていて、滑らないようにしっかり踏み締めながら降りる。
受験の当日に"すべる"なんて、縁起が悪いもんね。
今日は第一志望の第一北高校の受験日だ。
いつもよりも時間をかけて慎重に階段を降りていると、私たちの部屋の真下、一階右端の部屋のドアががちゃりと開く。
顔を出したその人は、私を見上げて顔を綻ばす。
「巫寿?」
アパート一階の右端、私たちの部屋の真下にあるその部屋は管理人さんの部屋だ。
私は玉じいと呼んでいる。
奥さんを随分前に亡くなくして以来ずっと一人暮らしをしているおじいさんだ。
昔から良く面倒をみてもらっていて、小さい頃はお兄ちゃんが仕事から帰ってくるまでの時間を玉じいの部屋で待たせてもらってたりもした。
最近はお兄ちゃんと3人で玉じいの76歳のお誕生日をお祝いしたばかりだ。
なのに、背筋は私よりもしゃんと伸びて全然おじいちゃんっぽくないハキハキしたひと。
昔はちょっと怖い人だと思っていたけど、笑った時の目尻の皺が優しくて、いつも私の髪の毛をボサボサに撫でる大きな手が昔からずっと好きだ。
「玉じいおはよ! 行ってきます!」
「気をつけてな」
はーい、と元気に手を振り返した。