「なるほどねぇ。なかなかやるじゃないか、巫寿ちゃん」


もうひとり、小さくなっていく車を見送る人影があった。

鎮守の森に生える太い桜の木の枝に腰掛け、車が走り去った方を目を細めてじっと見つめるその男。

トン、トン、と人差し指で幹を叩きながら独りごちた。


「あの男、(けしか)けるだけじゃ足りなかったか。いやいや、失敗失敗。俺もまだまだだね」


男はからからと笑うとすくりと立ち上がる。

長い前髪が揺れて、黒い眼帯がのぞいた。


「さて、次はどうしたものか」


楽しげに口角を歪めた男は、ひらりと木を飛び下りる。

着地する陰はなく、一枚の葉がひらりとその場にただ舞い落ちた。






【続く】